ピークとどん底を学んだマキロイ、オーガスタへ
2013年 マスターズ
期間:04/11〜04/14 場所:オーガスタナショナルGC(ジョージア州)
【WORLD】R.マキロイにあふれる魅力/マスターズプレビュー
Golf World(2013年4月8日号)texted by Curt Sampson
それでもマキロイに備わる図抜けた才能により雑音は起こらなかった。ただ、棄権した数日前から精神的な不安を表に出す兆候はみられた。ホンダクラシック1週間前、ツーソン近郊のドーブマウンテンで開催された「アクセンチュアマッチプレー選手権」でのことだった。スイングは乱れ、用品契約も変わったばかり。それにファンはマキロイにくっつき離れず。恋人のキャロライン・ウォズニアッキはドバイで自身に対するプレッシャーと戦い続けて不在。更にはアメリカ南部のアリゾナにも関わらず、奇妙なことに気温は低かった。
先日北アイルランドの住居を売却し、フロリダのパームビーチガーデンに新居を購入した。決して不動産が安価ではない土地に移り、まだ新居のライトのスイッチの位置も十分に把握していなかった時期でもある。しかも試合勘の鈍りでプレーも錆びつき、Golf Worldの記者からも酷評された。大会中に精神状態を乱したような素振りを見せたのは1度だけでなく、時には極めて扱いにくい場面も。全てが彼の流れではなかった。
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それでもマキロイは、メディアに叩かれようとも助けを求めず、ショックを受けている素振りを全く見せなかった。ツーソンでの大会前会見では、誰よりも長く質疑に応じた。それは、メディアが関心を寄せる世界ランキング1位の選手だからではなく、彼の答えが少々長かったからだった。2011年に「ただ正直でありたい」と語った時のように、「今も正直でいたいと思っている。誰かに守られたくはないし、意味の無い答えを言うのも好きではないから」と続けた。
質問の大半は新たに契約したナイキ製のクラブ、ボールに対する順応についてだった。マキロイは2011年の「全米オープン」、2012年の「全米プロ」を制した時、そして2012年にPGAと欧州ツアー賞金王となった時に使用していたクラブと袂を別った。今年初戦となったドバイでは、その新クラブとボールでありきたりな成績に終わったのだから、質問が集中するのも無理もない。
質問はゴルフにおける運動能力向上薬物の使用、ストロークプレーとマッチプレーの違い、そして世界ランキング1位の気分などについても及び、「(ランキング1位は)気分が良いポジション。自分への注目度が高くなればなるほど、自分が正しい方向に進めていると実感するもの。優勝出来ているということだし、好成績を残せているということでもある。何も不満は無いよ」と、マキロイは答えた。
ロリーの目標はビッグになることで、ペントハウスのスイートを狙う為、懸命に努力してきた。当然ながら現状に不満を言うわけもない。少年の頃は夜7時半から10時まで練習に励むなど、まるでドキュメント映画を連想させるような幼少期を過ごした。父親がパートタイムで働いていたバーのあるハリウッドGCでのフェアウェイを行き来することを忘れさせてくれたのは、学校に行っている時間と、夜の静寂だけだった。
夏には一日に54ホールをプレーすることもあり、当時から自分がメジャー大会を優勝する姿を想像していたという。スポーツ心理学の世界では、このように目標をイメージ化することは重要な考え方だという。マキロイは自身がオールドコースやオーガスタでプレーしている姿を思い浮かべ、自分のスコアカードをつけていた。
その予言が現実のものとなり始めたのは2007年の「全英オープン」からだった。欧州アマチュア王者だったマキロイは、当時弱冠18歳。予選を通過し、憧れの難所カーヌスティンでプレーする権利を獲得すると、初日にボギーなしの「68」を記録し3位タイとなり、メディアが周りを囲むと、カウンティダウン出身の青年は帽子を取って挨拶。その乱れた髪型はプレー不可能なライを想像させたが、熱弁をふるってみせたのだった。