ピークとどん底を学んだマキロイ、オーガスタへ
2013年 マスターズ
期間:04/11〜04/14 場所:オーガスタナショナルGC(ジョージア州)
【WORLD】R.マキロイにあふれる魅力/マスターズプレビュー
Golf World(2013年4月8日号)texted by Curt Sampson
おおざっぱに考えるのであれば、マキロイが言うように「単なるスポーツ」で、ゴルフにしか過ぎない。物事は変わり、年齢と共に肉体的、精神的な対応方法も変わっていく。今年の5月4日に24歳の誕生日を迎える若者は、既にありとあらゆることへの対応を求められている。それが何よりも物事を難しくする要因だ。その他にもウッズの脅威を日々感じていることだろう。彼が残してきた足跡に畏怖しているのではなく、復活を遂げつつある今のウッズに対するプレッシャーを感じているのだろう。マスターズ開催が近づく今だからこそ、簡単ではない。ただ、マキロイの過去を振り返ってみるのは簡単なことと言える。
「ザ・ホンダクラシック」の時点では世界1位で、タイトルを守る立場にあった。今年1月の「アブダビHSBCゴルフ選手権」では予選落ちを経験し、「WGCアクセンチュアマッチプレー選手権」では1回戦で敗退。
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ホンダでは観客対応への負担も相当だったはず。PGAツアーは練習ラウンドからプロアマラウンドの際も、グリーンからティへ続くルート上でサインを求めることを許可したのだ。常にサインを求める人だかりができ、写真、ポスター、帽子、グローブ、フラッグをマキロイに差し出す観客が後を絶たない。セキュリティガードも「押さないで!」と叫んだが、当然収まるわけもなく、多数の観客が詰め寄せ続けた。
サインを渋るウッズとは異なり、マキロイは進んでサインをするゴルファーとして知られている。輪を描くような形のR-o-r-yというアルファベットを黒のマジックで軽快にだ。「ロリー、ロリー、ロリー!!」といたるところから何度も声をかけられ、「妹へと書いてください」と、ある男性が中身でいっぱいの買い物袋にサインをねだれば、彼はサインに応じる。その数ホール後には、ある女性が「娘にと書いてください」とサインを求める。マキロイはサインに応じつつ、ゆっくり前に進むが、ナイロン製のロープで隔たれた両サイドはその内に崩壊。最前列にいたファンが後方から猛烈にサインを求めるファンに囲まれるような形を作るなど、その姿はまるで複雑に前進するマーチングバンドのようだった。
マキロイは陽気な性格の持ち主だが、流石にサインを求める大勢のファンとはアイコンタクトも、会話も交わさない。ただし、多くのプロが好んでサインする子供やお年寄りは尊重する。ウッズやホーガンは人前に晒される時は無口で、引きこもることを好んだものだが、アーノルド・パーマーは正反対に笑顔で、喜んでサインに応じた。マキロイは、ホーガンよりもアーニーに近いだろうが、ウッズの時代のファンは今よりも熱狂的だったことを忘れてはならない。
ベルファスト出身のマッシュルームカットのマキロイは、いつだって落ち着き払った様子でティに入ると、いつもの儀式を行う。ダブリン出身のキャディ、JP・フィッツジェラルドにペンを渡し、キャディはクラブを取って風向きをマキロイに伝える。ボールを置く位置は、顔の位置からやや左にずれたところ。ロゴが縦になり、アポストロフィーのような形に似て見える。それを440ccの赤いヘッドのクラブで狙いを定めるわけだ。神童と呼ばれた8歳からマキロイの指導を担当する温厚な性格のマイケル・バノンは、見晴しの良いところから教え子の構えを眺めている。マキロイは運動力学を活かして身体に力を溜め込み、高い身体能力によりスイング。その残像は大気中に残っているかのようで、まるで夜に線香花火の軌道を辿るようとも形容出来る。
教え子と生徒はショットの間、ダウンスイングとインパクトの瞬間をパントマイムのようにしていたが、何かがおかしい様子。マキロイはキアワで見せていた、流れるようでいて、ボクサーで例えるとKO間違いなしの力強いアッパーカットのようなフォームを追い求めているようだが、今は重心がずれている為、誤った方向にボールは飛び、安定性に欠けている。
それから2日後、これまで栄光に満ちていたキャリアに悪評が立ってしまった。ホンダクラシック2日目、8ホールを終えた時点で7オーバー。9番ホールの時点で親不知の痛みを訴え、“精神的に継続が困難”としてプレー続行が不可能と判断。同組のアーニー・エルス、マーク・ウィルソンと握手を交わすと駐車場へと歩を進めた。
マキロイは翌週ドラールの大会前会見でプレー続行を断念したことを後悔し、次のように説明した。「完全に誤った判断だった。自分のしたことを後悔している。もう二度と同じことにはならない。皆もわかっているように、歯の痛みは一因にしか過ぎなかった。周囲からの高い期待や、その他のことの蓄積が理由だった。全てを背負うよう自分で仕向けてしまったんだ」。