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【WORLD】待望の初優勝 R.ファウラーの真価
Golf World(2012年5月14日号) texted by Jaime Diaz
遂にやった。リッキー・ファウラーが悲願のPGAツアー初勝利を達成した。見た目の派手さとは異なり、クールに勝利を噛みしめた姿は、嫌みを感じさせず彼の魅力をいっそう際立たせた。
オレンジシャーベットを連想させるような最終日の出で立ち。低い声に抑揚のあまり無いしゃべり方は、その姿とのギャップを感じさせてしまうファウラー。彼は「ウェルズファーゴ選手権」でプレーオフの末に、ロリー・マキロイ、D.A・ポインツをサドンデスのプレーオフで破った。
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「プレーオフでは自分で自分にプレッシャーをかけた」というが、それもそのはず。2011年はスランプに陥り、2012年もスロースタートとなったわけだから、言葉からは重みが感じられる。2009年、そして2010年と周囲を驚かすパフォーマンスを披露し、2010年の「ライダーカップ」でも初出場らしからぬ大胆なプレーを見せて一躍注目の的となったが、当時の評価も最近では下降気味だった。
敗れたマキロイは、言葉を慎重に選びながら言った。「彼(ファウラー)は初勝利を手にしようと模索したり、過度なプレッシャーと戦っていたんだと思う」。同じ23歳として、勝利に対する周囲からのプレッシャーに理解を示した。これがベテランキャディの意見ともなると、よりダイレクトな表現になる。「リッキーは非常に多くのストレスを抱えた状態でプレーしていた。(インタビューなどで後方にブランドロゴの入った)キャップを逆さにかぶっていたのが何よりの証拠だ」と。
ファウラーがその瞬間を迎えたのは、プロ転向後67大会目となったクエイルホロークラブでの一戦だった。最終日には6バーディを含む「69」を記録し、3選手によるプレーオフに進出すると、プレーオフ1ホール目、難度の高い18番で、ドライバーショットからアグレッシブに攻めた。ピンまで133ヤードの第2打は、51度のウェッジでショット。ピンそば1.2メートルにつけ、勝利を手にした。
このクラッチショットは、2010年の「ライダーカップ」でエドアルド・モリナリと対戦した際、ラスト3ホールでドローに持ち込んだ時を思い起こさせるものだった。多くの人間はこの時に、ファウラーの素質を高く評価し、特別な存在になれる可能性を感じたものだ。
ゴルフ界は、ファウラーの台頭を期待していた。特徴的な髪型、服装、大きなキャップという出で立ちは、子供たちからも人気が高い。控えめな性格ではあるが、落ち着いた雰囲気、自然体で振る舞う佇まいを持ち、どこか“特別な存在”であることを予感させている。
しかしながら、同年代の選手達の中には「実績あってこその人気」と考えるものも多く、彼らの中には、ファウラーに対する嫌悪感をあからさまにしている者もいた。彼らの目にはファウラーは、“見かけ倒し”に映っていたのかもしれない。しかしファウラーは、そんな声には耳を貸さず、変に一流ぶったりもしない。D.A.ポインツは、最終日18番で痛恨のボギーを叩き、プレーオフに持ち込まれ、ファウラーに敗れた。しかしながら「ゴルフ界にとっても良いことだと思う。正直に言って、彼(ファウラー)は相当にレベルの高いプレーヤーだ」と祝福した。
ゴルフ界の重鎮もファウラーの才能を高く買っているようだ。アーノルド・パーマーは、ファウラーのヒゲ面、キャップを後ろ向きに被るスタイルについては異論があるのかもしれないが、2010年にファウラーがベイヒル(アーノルド・パーマーインビテーショナル)で初めてプレーした際、その振る舞いに心を惹かれたという。
「彼のことを嫌いなものはいない」と語るのはゲーリー・マッコード。彼の孫は、カリフォルニア州ムリエッタの高校時代にファウラーと同級生だったという。「ファウラーは注目され、過度な期待をかけられてスポイルされる可能性もあったが、そうはならなかった」。
経験を積んだベテラン達の目には、ファウラーは時代と逆行した存在に映るのだとか。独学のスタイルのほか、プレーのペースが速く、豊富なテクニックを持っている点が気に入られ、ショットの前後の所作やバランスのとれたフィニッシュ、それにグリーンまでの歩き方も印象が良いらしい。
昔ながらのベテラン達は、“はっきりと表現できないもの”を好む傾向がある。そんな彼らだからこそ、ファウラーの鋭い眼光、大胆さ、そして勝負師が持つ第六感に惹かれているのかもしれない。殿堂入りを果たしている名手ラニー・ワドキンスと頻繁に比較されるファウラーだが、ワドキンス本人によれば、「リッキーは常に“勝負”をしている。『上手く対処しよう』としているのではなくね。それが私自身も、自分がベストを尽くせていた秘訣なんだ」と話している。