「マスターズ」制覇を狙える5人のルーキー ティレル・ハットン編
2017年 マスターズ
期間:04/06〜04/09 場所:オーガスタナショナルGC(ジョージア州)
タイガー・ウッズの伝説的勝利から20年 1997年の当事者たち
ウッズが18ホールで使用したクラブの番手は
調子の良くない夜のモハメド・アリは、少し顔に染みが出ているように見えたことがあった。試合開始のゴングが鳴らされる前のリングにいるアリのこの顔色は、時として、その後に起こることの予兆となった。しかし、アフリカでジョージ・フォアマンと対戦した際、一人コーナーで長々と流れるザイール国歌が終わるのを待っていたアリは、キラキラと輝いていた。この日曜の朝のタイガーも、まさにそんな感じだった。
その前夜遅く、カップいっぱいのアイスクリームを分け合ったアールは息子にこう言った。「これはお前にとって、今までで最も難しく、そしてやり甲斐のあるラウンドとなるだろう」
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当時62歳だったリー・エルダーは、「私が到着したとき、タイガーはちょうど練習レンジを後にしたところだった。私は彼にこう言った。『今週、自分がやってきたことをやればいい。そうすればうまくいく』とね」と述べている。リーと抱擁を交わしたタイガーは、「このチャンスを(黒人選手に)与えてくれてありがとう」と、ささやいた。そして、練習グリーンから1番ティへと向かう途中、タイガーは「レースを終えるんだ」と自らを鼓舞した。それからの4時間、タイガーはこの言葉を何度も反すうした。
日曜のスコアはとても手堅い「69」。ウッズの猛烈なスイングの最中に、ギャラリーの子どもが近づき、危ういところで事なきを得た出来事を除けば、ほぼノーリスクのラウンドだった。にもかかわらず、リードはさらに3ストローク広がった。それまで「マスターズ」最少ストローク記録だったニクラス(1965年)とレイモンド・フロイド(1976年)の「271」は1打更新され、この年2位に入ったトム・カイトは12打差で敗れた。
これを上回る13打差でメジャーを制覇したのは、1862年に「全英オープン」で優勝したオールド・トム・モリスのみ(ヤング・トムは12打差でメジャーを制したことがある)。プロとしてのメジャーデビューで、ウッズはいきなり羊飼いのいた牧歌的な時代まで記録を遡らせたのである。
平均飛距離1位(平均323.1ydで2位のスコット・マッキャロンに25yd差をつけた)、パーオン率1位タイ(カイトとフレッド・ファンクと並ぶ55/72)、そして3パット0 回。タイガーはゴルフの幾何学的な常識に衝撃を与え、この世界の枠だけに留まらず、境界線や最大限度をも押し上げた。彼がグリーンを狙うクラブは当時もいまも、普通では考えられない番手だった。18のグリーンを11回はウェッジで狙い、全てのパー5で2オンが可能だった。