K.ブラッドリーが連覇に挑む 今田は好転の契機となるか
2012年 HP バイロンネルソン選手権
期間:05/17〜05/20 場所:TPCフォーシーズンズリゾート(テキサス州)
佐渡充高が簡単解説!初めてのPGAツアー【第三十七回】
■ 「HP バイロンネルソン選手権」
1944年「ダラスオープン」としてスタートし、今年で59回目を迎える。1947年から1955年まで9年間と、1963年、1965年は大戦や景気、スポンサーなどの影響でトーナメントは開催されなかった。第1回大会の優勝者はバイロン・ネルソン、第2回大会はサム・スニード、第3回大会はベン・ホーガンと、ゴルフの歴史を刻んできた選手らの優勝が続いた。“バイロンネルソン”の名が大会名となったのは1968年からで、その記念大会ではミラー・バーバーという、かつてネルソンのキャディを務めた経験のある選手が優勝を飾った。PGAツアーでは12番目の歴史を誇り、2002年には丸山茂樹が、タイガー・ウッズ、アーニー・エルスといった世界のトッププロを振り切り、ツアー2勝目を挙げた大会である。
■ バイロン・ネルソンという人
テキサス出身の選手はもちろんのこと、ネルソンを尊敬する選手は多い。存命の頃は、ネルソンの前で自分の最高のパフォーマンスを見せられるように選手たちは努力し、ネルソンはそんな選手たちを最終日の18番ホールで讃え続けてきた。彼は年間11連勝を含む最多18勝や、メジャー5勝、113回の連続予選通過(現在はタイガー・ウッズの142回に塗り替えられている)を果たすなど数々の記録を残している。そんな数々の偉業だけではない。彼ほどの多くの尊敬を集めた選手はほかにいないと思わせるほどの人格者であった。それは人柄の素晴らしさで、いわゆる博愛心の持ち主だったため、彼のトーナメントには至るところに真っ赤なハートマークがちりばめられている。穏やかだけど、好奇心旺盛、誰にでも気安くゴルフのテクニックを教えたり、様々な相談に乗ってくれるような心優しい人だった。
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トム・ワトソンの“師”がこのネルソンであることは有名だ。ワトソンはカンザス出身でテキサスには縁遠かったのだが、彼からゴルフを教えてもらい、ゴルフのスピリッツを享受した。ワトソンはプレーも早いし、潔い、まさにそのスポーツマン気質は、ネルソンの大きな影響を受けていると言えるだろう。ワトソンにとって、ネルソンの試合はもう1つの“メジャー大会”と言えるほど思い入れが強く、大会3連覇を含む4勝を記録している。昨年の大会では、キーガン・ブラッドリーがライアン・パーマーをプレーオフで制し優勝しているが、この時、敗者となったパーマーはテキサス出身で、是が非でも勝ちたいと思っていた試合だったはずだ。敗戦を喫したとき、あれほど悔しい試合はなかったと思う。
ネルソンが他界し、現在は妻であるペギー夫人が選手たちを出迎える。未だにそんな“しきたり”が続いているが、選手たちはペギー夫人のそばに立つネルソンの姿に思いを馳せる。彼はマナーも素晴らしかったし、フェアプレーで、潔かった。それと同時に選手たちはゴルフのスピリッツを改めて肝に銘じる週となる。
- 佐渡充高(さどみつたか)
- ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。