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涙が明かした“賞金女王”の苦悩

「泣いちゃダメ」。なんとか堪えていた涙はしかし、同組の吉田弓美子にかけられた言葉により、ポロポロとこぼれ落ちた。「今まで大変だったね。おめでとう」。ここ数ヶ月のアン・ソンジュの苦しみは、周囲の選手たちにも伝わるほど長く、重かった。

3ヶ月以上前に遡る。アンのメジャー3連覇が話題の中心になっていた「ワールドレディスチャンピオンシップサロンパス杯」。記者会見場で笑顔も交じえて話していた「すごいプレッシャーです」との言葉は、その場にいた関係者の想像を超える重いものだった。勝たなければならない。勝って当たり前――。2010年、11年と2年連続で日本ツアーの賞金女王を獲得した実績は、それまで他人の話でしかなかったプレッシャーを初めて意識させるようになっていたという。

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「その時から、ゴルフから逃げたい気持ちになった。怖かったし、ゴルフ場にも来たくなくなった」。6月ごろまではホテルの部屋で、人知れず涙を流す夜を過ごした。「もうゴルフをやめたい」。心の叫びにとどまらず、アンの良き理解者である父・アン・ビョンギルさんに訴え続けてもいた。

「練習をしなくちゃダメ。アンちゃん、頑張れ」となんとか自身を鼓舞し、試合に出場し続けた。そんな矢先・・・アンが胸を痛める事実が追い打ちをかけた。愛娘の悩みが、父の身体をも蝕んだのか。ビョンギルさんが腸を痛め、今週開幕前の水曜日に韓国の病院で検査を受けるほどの症状になった。「きっと私のせいだと思う。優しい娘でいたいのに…」。父のことを話す目に、再び涙が溢れ出た。

「優勝を早くお父さんに知らせてあげたい」。今大会は練習へ臨む目の色がそれまでとは違っていた。「今週は、ミスショットをしてもバーディを獲っても、スマイルを心がけた。だから良い成績が出たんだと思う」。父を想い、自らを省みた努力が、約1年ぶりとなる久々の勝利に結実した。

そんな父の存在は、今年、日本ツアーをこよなく愛するアンの気持ちを動かしていた。「日本で有名になったんだから、アメリカでプレーするアンちゃんを見てみたい」。父の願いをかなえるべく、10月に米国で開催される米ツアーのセカンドQTにエントリー。体調を崩して断念した、08年以来となる米ツアー再挑戦を心に誓っている。

もちろん、父の症状が回復することを再挑戦への条件にしている。父娘の絆は、アンを次なる高みへと導きそうだ。(神奈川県箱根町/塚田達也)

塚田達也(つかだたつや) プロフィール

1977年生まれ。工事現場の監督から紆余曲折を経て現在に至る。35歳を過ぎてダイエットが欠かせなくなった変化を自覚しつつ、出張が重なると誘惑に負ける日々を繰り返している小さいおっさんです。

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