「LIV」の登場はプロゴルフ産業にとって福音か
LIVゴルフ対PGAツアー 実現期待したい“遺恨試合”/小林至博士のゴルフ余聞
LIVゴルフ vs 米PGAツアー、両陣営の対立を報じるニュースが続いている。“場外乱闘”は勘弁してくれ、というファンもいるだろうが、勃発から1年近くを経てなお、グレッグ・ノーマンやロリー・マキロイら各々の陣営の要人のコメントが発せられている。そのたびに見出しになっているのは、やっぱり世の中の関心・ニーズが高いからで、そろそろ“遺恨試合”を仕掛けてみてはどうかと思う、きょうこの頃である。
「今日も博多に血の雨が降る!」と聞いて、ピンと来る方は、かなりの野球通かスポーツマーケティングの専門家であろう。1974年春に観客動員、成績ともに低迷していた太平洋クラブライオンズが、ロッテ・オリオンズ戦の試合日程ポスターとして、電車の中吊り広告など福岡で展開したキャンペーンである。
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その前年の外国人選手の争奪戦を端緒に、乱闘と暴言が繰り返されてきた両球団にあって、遺恨を活用して世の耳目を引こうとした本作戦。当時のパリーグの不人気を象徴する逸話として野球ファンの間では密かに語り継がれているが、スポーツ科学の世界でも、マーケティングや倫理などの事例研究でしばしば取り上げられている。
むろん、ゴルフという競技特性上、太平洋クラブvsロッテのような、おどろおどろしいコピーは得策ではないだろう。ちなみに、あまりに扇動的だとして福岡県警の指導が入り、ポスターは撤去、遺恨は両軍のファンの暴動に発展するなど必ずしも作戦成功とはならなかった。過ぎたるは猶及ばざるが如しである。
やはり対抗戦がいいだろう。ライダー・カップ、プレジデンツカップでお馴染みのカップ戦方式を中心に、様々な対抗試合を定期的に開催しつつ、WWE的な舞台裏を加える。WWEとは世界最大のプロレス団体で、シーズンごとにレスラー、経営者一族(マクモーン家)の遺恨や愛憎などを軸にした対立の構図がドラマ仕立てで展開し、ペイ・パー・ビューで放送される最終回にリングで決着が図られる。筋書きあるプロレスとゴルフを同列に論じるとはなにごとか、とお怒りの向きもあるかもしれないが、そういうことを言っているのではない。遺恨は邪道だが売れる、ということである。
むろん、WWEのような襲撃はNGだが、ノーマンとPGAツアーのジェイ・モナハンコミッショナーがクラブハウスで罵り合うくらいはOKだろうし、世代別のマッチプレーを催してみるのも一興。和解→合併→再分裂など展開は様々に考えられる。ゴルフはコロナ禍で劇的な人気回復を果たしたものの、見るスポーツとしては先進国で最も若いアメリカでも視聴者の平均年齢は64歳、それも毎年、きれいに1歳ずつ上がっている状況に変化はない。つまり、若いヒトを呼び込めていない。そんな悩みを一気に解消する、絶好のチャンスが今である。(小林至・桜美林大学教授)
- 小林至(こばやし・いたる)
- 1968年生まれ。江戸川大学教授を経て、2020年4月から桜美林大学(健康福祉学群)教授。92年、千葉ロッテにドラフト8位で入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。93年退団。翌年からアメリカに在住し、コロンビア大学で経営学修士号(MBA)取得。2002年から江戸川大学助教授となり、05年から14年まで福岡ソフトバンク球団取締役を兼任。「パシフィックリーグマーケティング」の立ち上げなどに尽力。近著に『スポーツの経済学』(PHP)など著書多数。