【WORLD】A.スコット 愛しのグリーンジャケット/マスターズレビュー
Golf World(2013年4月22日号)texted by Jim Moriarty
そして謎に包まれた事態も発生した。タイガー・ウッズはどうしたって失格にはならないのだろうか。ウッズが一時首位に立っていた2日目の15番ホールで問題のプレーは起こった。ピンに当たった3打目がグリーン手前の池に入り、打ち直しの場所を決めるドロップを”打った場所から2ヤード下がった位置”で行い5打目を放った。テレビ中継を見ていた視聴者が、ウッズの判断がルール違反に該当するのではと指摘し、ルール委員が確認の為に奔走。ウッズはそのまま18番を終えてスコアカードを提出。
ラウンド終了後に問題として指摘された判断について問われてコメントを残したが、結果的にスコアカードの誤表記と判断されることに。イギリスの政治家ウィンストン・チャーチルの「アメリカ人は最後の最後になってから、ようやく正しいことを実行する」という言葉が頭を過った。
3日目の朝8時にコースに来るよう求められたウッズは、元USアマチュア王者であり、マスターズ競技委員長兼USGA代表のフレッド・リッドレイとコース上で協議。その姿はコーンビーフをチェーンソーで真っ二つに切り裂く様に、未熟な大賢者が問題を二分化してしまう様だった。スコアカードの誤表記は競技者の失格に該当するはずだが、競技委員会がその点を見落としていた場合は対象外となる。ウッズに対しマスターズ委員会もドロップが問題となる可能性を伝えていなかった為、ウッズが明らかにルール違反を犯し、その後コメントで認めていようとも、2打の罰則を科し、プレー続行という結論に達したのだった。当然ながら有識者、そしてツイッター愛好者の間では激論となり、わけのわからないルールを細分化し上手く言いくるめようとしているだけで、宙を舞う松の花粉のように、あやふやな決定を下したと批判を受けた。チャーチルでさえ中立な立場となるような判定を下したのだった。
結果ウッズは4位タイで終了し賞金35万2000ドルを獲得。もし仮にウッズが優勝していたらどうなっただろうか?彼がメジャー通算19勝という記録を樹立したと仮定して、ニクラスよりも1勝多いとみなされるだろうか?ゴルフ史上に残る圧倒的な存在が僅か2ヤードの為に名声を傷つけることになるのだろうか?だがしかし、最終日前半にパットの不調に苦しみ、問題とはならなかったというわけだ。
そんなルール問題を吹き飛ばしてみせたのはデイだった。オーストラリア伝統武器であるこん棒を手にしたかのように一時首位に立つ活躍。一昨年のマスターズではスコットと2位タイでフィニッシュしたデイは、ワシントンロードからクラブまでトレーラーハウスで家族と共に移動。1世紀近く生やしたような清潔感の無い髭はトレーラーハウスでの移動が理由ではない(いつか年老いたトム・モリスに近くなるかもしれないが)。最終日に日が沈んだ影響を一切感じさせず、レイシュマンよりも2打良い7アンダーを記録。そして53歳のフレッド・カプルスは、唯一ピメントチーズ効果で若さを維持している存在なのではと連想させるプレーを披露した。
デイは昨年のマスターズで僅か8ホールをプレー後、脚の負傷により棄権するという屈辱を味わった。それゆえ去年のフラストレーションがモチベーションに変わったとも言える。「彼が最初にマスターズに出場した際は、全てが上手くいって、全てがピースとしてはまるような年でした」とは、長年デイのキャディー兼コーチを務めるコリン・スワットンの言葉。昨年のオフシーズン、デイとスワットンは恒例の会議をオハイオにあるデイの自宅で行った。デイは僅か12歳の時に父親を亡くしていた為、昨年生まれたばかりの息子ダッシュが全てだった。何よりも息子のことを優先していたデイを見ていたスワットンは、「やることが多過ぎて、モチベーションを上げることすら難しい状況だったんです。しかし今年は既に調子の良い状態に戻っていると言えますね」と語った。
マスターズ開幕前、今年はじめにペブルビーチで勝利した際、世界で最もホットなゴルファーはスネデカーだった。その後肋骨を負傷し、マスターズ最終日には後半スコアを3つ落として優勝戦線から脱落。もし仮に衰えを指摘するのであれば、それはコルドバのプライドということになるだろう。2009年のマスターズ優勝時には世界ランキング69位としていたが、その後269位にまで低迷。カブレラのコーチであるチャーリー・エップスは、「アンヘルは個人的な問題を多く抱えていた。離婚、別居など、数年は彼の心を乱す要因となった問題だった」と教え子の不振の原因を説明する。
カブレラは昨年アルゼンチンオープン、そして自らが主催するトーナメントであるカブレラ・クラシックで優勝を果たして復調の兆しを見せた。エップスの話では、何よりも2人の女性の存在が果たした役割が大きかったという。新たな恋人コキ・ラミレスさん、そして昨年11月に生まれたばかりの孫娘アゴスティーナちゃんだ。「彼女達が彼の人生を一変させた」とエップス。マスターズに向けた準備を終えた時、カブレラはエップスに向かってこう語ったという。La maquina esta listo(マシーンの準備は整った)と。
だが本当のマシーンはスコットのロングパターだった。これで過去6メジャー大会の優勝者中の4人がアンカーリングのパター使用者ということになる。しかし今大会の場合、胸に固定されたのはパターだけではない。オーストラリアの国民の心にも“固定される”結果になったと言える。
Used by permission from the Golf DigestR and Golf WorldR. Copyrightc 2011 Golf Digest Publications. All rights reserved