“全米女子オープン”初挑戦を終えた2人
2012年 全米女子オープン
期間:07/05〜07/08 場所:ブラックウォルフランチャンピオンコース(ウィスコンシン州)
【WORLD】チェ・ナヨンのメジャー初制覇を生んだ“間”
Golf World(2012年7月13日号)texted by Ron Sirak
プロゴルフの試合が土曜日で決着することはない。しかし今年、ブルックウルフランで行われた「全米女子オープン」は違った。チェ・ナヨンが、第3ラウンドの平均スコアよりを12ストローク下回る「65」を叩きだした時に、勝負は決したように見えた。これでチェは、最終日を6ストロークのリードで突入。これは彼女のプレーを見ると逆転不可能な差だった。2日間で30度を越える猛暑は、チェを除く他の選手を苦しめたが、シャイでスレンダーな韓国人チェだけはいくつかの幸運にも助けられたことでファイトも沸き、素晴らしいプレーを見せ、初のメジャー制覇を成し遂げたのだった。
最終ラウンドの9番でエイミー・ヤンがバーディとしたところでチェとの差は5打に。ここでチェが突如、崩れた。10番パー5でティショットをハザードに打ち込むと、打ち直した後もここから3度続けてラフに入れトリプルボギー。リードは2打に縮まった。チェは大崩れするかに見えたのだ。
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ところがここで思いもよらぬことが起こる。ピア・ニールソンとリン・マリオットが主宰する「ビジョン54」の生徒だったチェは、11番のティショットでフェアウェイをキープすると、落ち着いてバナナを食べ、バーディ奪取した。これがきっかけとなり、ここから6ホールで3つのバーディを奪うと「73」でまとめ通算7アンダー281でホールアウト。ヤンに4打差、サンドラ・ガルに8打差をつけ優勝した。結局、ピート・ダイ設計の難コースでアンダーパーを記録したのはチェとヤンだけだった。
チェのキャディを務めるシェーン・ジョエル(マーク・オメーラにもついたことがある)は、終盤でチェの集中力を持続させた人物。チェは「10番が終わって、このまま怒ったり、イライラしていたら、自滅しているところだったわ。どうにかしなければと思ったの。だから、ここでキャディとゴルフ以外の事を話すようにしたわ。例えば『いつ自宅に戻るの?』とかね。彼は『ナヨン、10番のことは忘れるんだ。僕たちならできるよ。過去は忘れて、先のことを考えよう。過去は過去だ』と言ったの。それから楽しいことは語り合った」。2人がそんな話を始めた途端、バーディを連取できたというわけだ。
このブラックウルフランで開催された1998年の「全米女子オープン」で朴セリが優勝したのをテレビで観ていたチェは、当時韓国にいた10歳の少女だった。そしてここで起きたことは運命だった。一番思いがけなかったのは、13番のパー3でボールが池のエッジにある岩に当たると、そこからパーセーブ。その前のホールでは、深いグリーンサイドのラフから寄せてここもパーでしのいだ。そして15番ではティショットがバンカーを避けるラッキー。一つの幸運が別の幸運を生み出すことがあるが、まさに今回のチェはそんな状態だった。
ここ5年間の全米女子オープンで4人目の韓国人チャンピオン、そして初のメジャー制覇を成し遂げたチェは、まだ周囲にはあまり認識されていないベストプレーヤーになったと言える。今年、ロレックスランキングで2位から4位を行ったり来たりしている彼女は、24歳にしてツアー6勝を記録。2008年には新人賞レースでヤニ・ツェンに次ぐ2位となり、2010年には賞金女王のタイトルと平均スコアトップに与えられるバレ・トロフィーを獲得した。それでもメジャー5勝のツェンの影に隠れているのだ。
チェは、ガル、スザーン・ペテルセン、宮里藍、ブリタニー・ラング、ブリタニー・リンシカム、ギウリア・セルガス、ツェン、最近ではミッシェル・ウィを含むツアーで12人以上いる「ビジョン54」の生徒の一人。ニールソンとマリオットは、2009年からチェの韓国をベースにしているロビン・サイメスの提案によりチェを指導しており、チェがアメリカにいるときは、ケビン・スメルツがコーチを務めている。
チェはニールソンとマリオットについて「昨晩、2人からメールをもらったわ」とコメントした。「『3日目は良かったけど、もう一日ラウンドしなければいけない』と言ってくれたの」。2人はチェに、悪いラウンドも良かったラウンドも忘れるように伝えたという。2人は「日曜は、また新たな一日。自分のゴルフに集中するように」と話したようだ。そしてチェは「そのメールを見て、良い気分になったの。自信も持てたわ」と語ったのだ。
アニカ・ソレンスタムを指導してきたニールソンは、チェとソレンスタムには共通点があるという。「ナヨンはアニカのような傾向がかなりある。彼女は実にスマートで、複雑にプレーしない。土曜日のラウンドを見ればわかるけど、一度距離感をつかんだら、それに集中している。彼女が後悔ないようにプレーしたいと言ったら、それは彼女が決めたことに100%集中してプレーするということ」。
またニールソンは、チョイがハードワーカーで、時に自身を苦しめることもある完璧主義という点でもソレンスタムに似ているとしている。この傾向を改善することも、チェが2人と取り組んできたこと。マリオットは「ショット後のマネージメントも良くなった。例えば、悪いショットで取り乱したり、ボディランゲージのようなリアクションが改善された」と言う。
彼女は、豊かな人間性をはぐくむことや、多くの韓国選手が苦戦する親離れにも2人と一緒になって取り組んでいる。マリオット曰く「ここ2年、彼女はゴルフから離れて、他のことに興味を持つことを学んだ。以前はそうではなかったが、今は韓国料理を作ったりもする。私たちは彼女だけでなく、彼女の両親もコーチしている。彼らはナヨンにスペースを与えて、彼女のゴルフを彼女自身でマネージさせるようにしている。これまで毎週のように遠征についてきていたが、より韓国に留まるようになった」という。
ツアーにいる47人の韓国選手と同じように、チェの成功へのモチベーションは1998年にブラックウルフランで朴が勝ったことが原因となっている。「ツアーの舞台に立つことが夢だったけど、14年後にツアーに出ることができた。夢が叶ったの」。そして朴がシャンパンで祝福してくれたことで、夢の現実が一層喜ばしいものとなったのだ。
しかし、11番のフェアウェイを落ち着いて歩き、キャディと楽しげな会話をしていなかったら、この夢も実現しなかったかも知れない。確かにこれは「ショットとショットの間の出来事」がもたらしたメジャー制覇だった。このままこれを続ければ、チェは韓国勢では朴以来となるメジャー複数回優優勝も果たせるはず。彼女はもう、影の存在ではないのだ。
米国ゴルフダイジェスト社提携
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