金メダルでシード“10年分” 「蚊はコースにほぼ出ない」とも/五輪日本代表
2016年 リオデジャネイロ五輪
期間:08/11〜08/14 場所:オリンピックゴルフコース(ブラジル・リオデジャネイロ)
【五輪コラム】オリンピックこそ最高の舞台 Part.2
素晴らしき敗者たち
日本人選手による五輪の金メダル獲得を3度伝えたことを自慢に思ったことはない。世界の色々な競技の選手たちが全力を尽くす姿、素晴らしい敗者たちに心打たれ、感動させられるから、五輪は世界一の大会なのだ。
ロサンゼルス五輪に初めて女子マラソンが登場したが、ヒロインはぶっちぎりで優勝したべノイトではなく、精根尽き果てフラフラでゴールに向かったアンデルセンだったことを覚えている方も多いだろう。放送席の私は「泣くな、叫ぶな、慌てるな」と自分に言い聞かせながら、全身全霊で“ゴールイン”を伝えた。カリフォルニアの青空に十万の観衆の拍手が鳴り響いたシーンは今でも忘れられない。
<< 下に続く >>
バルセロナ五輪・陸上男子400メートル準決勝。日本の高野進が初めて決勝に残れるかというレースで、高野はスタートして4位、5位争いをしていた。決勝に残れるのは4位まで。この中に優勝候補、英国のレドモンドがいる。第3コーナーでアクシデントが起きた。レドモンドの足が攣り、屈みこんで走れなくなってしまったのだ。高野の決勝進出は間違いなくなった。だが、ドラマには続きがあった。
レドモンドは棄権せず、立ち上がって足を引きずりながら歩き始めた。役員の制止を振り切って、コーチの父がコース内に入り、息子を抱きかかえ二人三脚でゴールを目指した。完走とは認められないことを知りつつ、親子はあえて肩を抱き合ってゴールインした。レドモンドの無念の涙にスタジアムの大拍手はいつまでも続いた。これが五輪なのだ。喋りながら涙が頬をつたった。栄光、歓喜だけではない。挫折、失意、非情、残酷もあるのが五輪。そこに、4年間の想いがあるからだ。
五輪は総合体育大会
五輪は世界選手権ではない。一競技の大会ではなく、色々な競技の選手が一堂に集まる総合体育大会である。プロが参加するようになって、巨万の富を持つスーパースターたちの中には選手村に入らず豪華ホテルで過ごす選手も多い。だが、五輪の素晴らしさは開会式に行進し、選手村で過ごし、世界のアスリートと交流することにある。
そして、ゴルフファンだけが見ている毎週のトーナメントと違い、ゴルフを知らない人、馴染みのない人もテレビの前で楽しみ、応援するのが五輪である。選手ではない私のような放送人でさえ、日本代表という意識で放送に取り組んできた。五輪に出場する選手は“幸せ”だと感じて欲しい。あのジャック・ニクラス、アーノルド・パーマー、アニカ・ソレンスタム、ナンシー・ロペス、キャシー・ウイットワース、そして、たぶんタイガー・ウッズさえも経験できない特別な大会なのだから。
■ 著者プロフィール/島村俊治(しまむらとしはる)
1941年生まれ、東京都出身。早稲田大学政経学部卒業後、1964年にアナウンサーとしてNHKに入局。夏・冬合わせて8回のオリンピックを実況した。鈴木大地(88年ソウル)、岩崎恭子(92年バルセロナ)、清水宏保(98年長野)らの金メダル獲得を伝えた。全米オープン、全米女子オープンなどのゴルフ中継にも携わり、2000年にNHKを定年退職。現在、スポーツジャーナリストとして精力的な活動を続けている。