【スイング動画】松山英樹フェアウェイウッドショット
「“貯金”が尽きた」30代のカラダとココロ/松山英樹2023年末インタビュー(3)
2023年は松山英樹にとって苦悶の一年と言えた。PGAツアーに本格参戦して10年目。2014年から昨年まで続けてきたシーズン最終戦「ツアー選手権」進出を逃し、継続中の選手としては最長の9年連続で記録が途絶えた。第一線を走ってきた31歳がインタビューの第1回、第2回で明かした「振れない、飛ばない」悩みと、ドローボール回帰への強い意志。最終回はシーズン後半戦に見えた光明について語った。(聞き手・構成/桂川洋一、亀山泰宏)
「年寄りのゴルフ」
長年PGAツアーで生き抜くためのスキルを覚え、故障が増え、23年前半は顕著になった飛距離ダウンと付き合いながらプレーした。
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「ビトウィーンの距離(Between=番手と番手のあいだの中途半端な距離)が残った時、振れていた時は(力を入れて)振って距離を落としていた(曲げ幅を調整して縦距離を合わせた)。今年は振れないまま、飛ばないからアイアンの番手を上げて『ちょーん』って。ホントに“年寄りのゴルフ”ですよ」。そう苦笑いして、はきだした。「良いスコアを出すため、良い結果を出すために自分に腹を立てながらやっていた」
焦燥感を増幅させながら、綱渡りする感覚で試合をこなした。不本意なゲームを繰り返しながら、シーズンの終わりにわずかでも希望を得られたという。まさに最終戦「ツアー選手権」の連続出場記録が、途絶えようとしていた季節のことだ。
「(7月末の)3Mオープンでアイアンショットの飛距離がちょっと戻ってきた感覚があった。暑かったのもあるけれど。次の週のウィンダム選手権もスイングが良くなり始めたところ。少しの痛みであれば、“振れる身体”に戻ってきた感じがあって。あるパー3でアゲンストの風に向かって打ったとき、自分が思ったより5ydくらい飛んでいて。『あれ、戻ったかも』みたいな。少し自信はつきましたよね。最近の感覚だったらピンより手前に落ちていた感触だったのに奥まで行っていて。『ああ、なんかちょっとずつ自信が戻ってきそうだなあ』と」
新たな出会い
語った2試合は、30位と予選落ちという成績。手応えは結果に必ずしも比例しない。夏場に得られた好感触をもたらしたものは何だろうか?「スイングでしょうね。あとはトレーニングもでき始めたのがあったんで」。実は昨年の中頃から、松山は新しいトレーニングを取り入れている。米国で出会った2人のドラコン選手たちの教えによるものだ。
「1人のプロに最初に会ったのは去年のマスターズ前だった。(ゴルフ場で)『このおじさん、すごい球を打つ、エグイなあ』と思ってデータを見せてもらった。軽く振っているのに、ヘッドスピードが130マイル(約58.5m/s)、ボールスピードが190マイル(約84m/s)も出ていた」。どちらも松山が全力で振った時の最高値に近い。「『すごいなあ』って言ったら、『too slow(遅すぎ)』だって(笑)。力を入れて振ってもらったら、(ヘッドスピード)144マイル(約64.4m/s)出たよ…」
2人は既にシニア世代。衝撃的なパワーを目の当たりにし、松山は飛ばしのトレーニングメニューを尋ねるようになった。首痛が深刻な時期でもあったため、患部をいたわりながら地道な鍛錬を重ねて今に至る。「最初、彼らのトレーニングをやってみたら、背中を“つって”しまって。『下半身はまずまず強い。でもこういうところが弱っているから首に負担がかかったんじゃない?』と言われた」。松山には反省がある。プロとしてのキャリアをスタートさせてから、足腰のトレーニングには熱心だったが、肩や胸の周囲の筋肉を大きくし過ぎることで、スイングへの影響が大きくなることを恐れ、上半身の増強をおろそかにしていたふしがあるという。故障は上と下のバランスを欠いた結果だったのかもしれない。
「肩のトレーニングができるようになってきた。ウェアが少し小さく感じるようになったんですよ。首は6月くらいから、あまり痛くなっていない。夏場は背中と腰の間くらいが痛かった」。秋に日本で出場した2試合もタイトル争いには加われなかったが、いずれの試合も痛みに顔をゆがめるシーンがなかったのは好材料だった。
年度 | 試合数 | 優勝 | 2位 | 3位 | TOP10 | TOP25 | 予落 | 棄権 | 獲得賞金 | フェデックスカップ | (プレーオフ前) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2022-23 | 25 | - | - | - | 2 | 11 | 4 | 2 | $3,857,028 | 50 | 57 |
21-22 | 21 | 2 | - | 1 | 6 | 10 | 2 | 2 | $5,776,298 | 11 | 11 |
20-21 | 27 | 1 | 2 | - | 3 | 10 | 4 | 1 | $4,963,594 | 26 | 14 |
19-20 | 20 | - | 1 | 2 | 5 | 14 | 3 | $3,665,825 | 15 | 18 | |
18-19 | 24 | - | - | 2 | 7 | 15 | 2 | $3,335,137 | 9 | 30 | |
17-18 | 21 | - | - | - | 4 | 12 | 2 | 1 | $2,687,477 | 13 | 76 |
16-17 | 22 | 3 | 3 | - | 7 | 12 | 2 | $8,380,569 | 8 | 1 | |
15-16 | 23 | 1 | - | 1 | 8 | 14 | 4 | 2 | $4,193,954 | 13 | 12 |
14-15 | 25 | - | 1 | 2 | 9 | 19 | 2 | $3,758,619 | 16 | 20 | |
13-14 | 24 | 1 | - | 1 | 4 | 12 | 2 | 2 | $2,837,477 | 28 | 22 |
尽きない闘争心
来年2月には32歳になる。良いと思うものを吸収し、自分を変えようとする姿勢はまだ衰えていない。「取り入れる必要があると思っている。必要ではない、と思うことなんてないから。試してみて、自分にとって心地良い方向に向かっていたら続けてみる。例えばスイングも、変えて、直した結果、悪い球が出るのであれば、どこを変えたら気持ち良いところに出球が出るのか…と細かく、マイナーチェンジをしていく」
日本から20代の選手が続々と海を渡り始めている。頼もしく思う半面、10年前とは違う危機感が身を包む。
「若い選手と一緒に練習すると『こんなに練習するのか、すごいな、打てる体力があるのはすごい』と思う。自分が10代、20代前半で普通だったのが、今そう思うのは自分が変わっている証拠。自分が今やろうとしているトレーニングって、1年目、2年目には試合期間中にやっていた(程度の)こと。特に1年目なんか、朝にがっつりトレーニングをして、試合をして、練習をして、時間があったらまたトレーニングをした。それがいつの間にか、きついトレーニングに打ち込む心が折れるようになった」
「当時の“貯金”が完全に尽きちゃってるな…って。本当ならストックし続けて、40代で(貯金が)生きるというのが良いはずなのに。それが自分にはできなかった。けがをして、全部はき出しちゃった。だから、もう一回ちゃんと作っていかなきゃいけない。来年は結果に出なかったとしても、再来年に出るかもしれない。結果は技術的な問題もあるからなんとも言えないけど、まずは制限なく練習できる体を作らないと」
改めて、23年は「全部ですよ、全部かみ合わなかった」シーズンだと思う。「ちょっと、なんか特殊だったな。かみ合わないのも。原因は何となく分かっているようで分かってないって感じ。でも、ZOZOチャンピオンシップが終わってからちょっとずつ良くなるかなという気配があったので、それは助かりましたよね」
待望のPGAツアー9勝目、2つ目のメジャータイトル、シーズン最終戦への再進出に「パリ五輪」…目指すべきものが目白押しの2024年を前に、松山英樹は挑戦者としての気持ちを強くしている。