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2016年 リオデジャネイロ五輪
期間:08/11〜08/14 場所:オリンピックゴルフコース(ブラジル・リオデジャネイロ)

松山英樹の決断と苦悩 代表辞退が問いかける五輪ゴルフの意義

米ツアー2勝、世界ランキング16位。8月のリオデジャネイロ五輪で日本のエースと期待された男子ゴルフの松山英樹が、代表入りを辞退した。ブラジルで広がるジカ熱をはじめとした衛生環境や治安問題への懸念、そして松山本人の虫刺されに対するアレルギー反応など、欠場は多岐にわたる不安要素を勘案しての決断だった。

ジェイソン・デイがオリンピックに行かないかもしれない」――。そんな情報を松山がキャッチしたのは5月のことだった。

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メジャーをはじめとしたビッグトーナメントが短期間でひしめく強行日程に加え、ジカウイルスによる感染症を心配して、出場を辞退するプロゴルファーが相次いでいるリオ五輪。ここ数カ月の間、世界最高峰の舞台である米国男子ツアーを戦うプロの間では、その話題で持ち切りになっていた。

トッププレーヤー同士が互いの出方をうかがい合うような空気が充満し、世界ランキング1位のデイが実際に、オーストラリア代表入り辞退を表明したのが6月28日(火)。松山が同じ意思を示したのは、その5日後だった。

1904年のセントルイス五輪以来、112年ぶりに五輪の正式種目に復帰するゴルフ。欧米から南アフリカ、オーストラリア、日本、アジア各国で商業的な成功を収めているプロツアーを戦う選手が、メダルを争うというコンセプトで採用された。しかし、世界のトッププロの間では、この“五輪ゴルフの意義”への懐疑的な目が少なくなかった。

松山もその一人である。五輪でのメダル争いについて、かねて「小さい頃からメジャーでの優勝が目標だった。オリンピックがすごい大会だというのは分かるが、プロゴルファーにとってはどうか…」と話していた。その言葉を補足するようなコメントを、数日前にデイが残している。「国を代表し、4年に1度しかない特別なイベント(五輪)で金メダルを獲ろうと懸命に準備してきた選手たちと、毎週にわたって(特別な試合で)プレーしている僕らは少し違う」

1シーズンに4回のメジャー大会、さらに4回の世界選手権(WGC)。毎年のシーズン後に開催される「ライダーカップ」や「ザ・プレジデンツカップ」といった地域別対抗戦。世界の一流選手にとっては、それらすべてで国を背負う気持ちで戦っている。

松山にとっては、五輪メダルの価値はたった一つだった。今年の初め、練習ラウンドの最中にふと、漏らしたことがあった。「オリンピックに出る意義って何なんだろう…。メダルを取れば、確かに日本のゴルフ界が盛り上がるかもしれない。俺のモチベーションはもう、そこにしかない」。彼の中での五輪は“自分が出たいもの”ではなく“別の誰かのために出るもの”になって久しかった。

だからこそ、決断に時間がかかった。この日「(日本のゴルフのために)オリンピックに出ることが一番良いかもしれないですけど、そこまでリスクを背負っていく必要があるのかという感じはありました」と話した松山は終始、伏し目がちだった。

「日本のゴルフのために」という動機と、自分の将来とを天秤にかける作業を何度も繰り返したここ数カ月。その苦悩は決して小さくはない。虫刺されに対するアレルギー体質を大きな“決め手”として、おそらくは既に、欠場の意思を固めていたであろう今週の初めも「(日本の)ゴルフファンに『松山英樹は五輪に出るべきか』ってインターネットでアンケートを取ったら、どうなるんだろう…」と、周囲の反応を憂慮していたのだから。

辞退を表明した男子トッププロが口にする理由はそれぞれだが、結局は、五輪に出場する名誉やメダルの魅力が、リオでプレーするリスクを超えられなかったことに尽きると言える。

普段のツアー大会のほとんどの試合で採用されている競技方式と同じ、72ホールのストロークプレーの4日間大会であることも、彼らには不評なままだ。松山も「これが個人戦でなくチーム戦だったら、ストローク戦ではなくて、ふたりでチームを組んでやるような感じだったら、違う決断になったかもしれない」と疑問を呈した。

ゴルフのオリンピック種目採用が決まっているのは2020年の東京大会までで、その後は再び姿を消す可能性もある。トップ選手をいかにして五輪に呼び込む価値を創出するか。若きエースの代表辞退は、4年後に向けた大きな課題を投げかけている。(オハイオ州アクロン/桂川洋一)

桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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