最終マッチの最終ホールで決着!米国選抜が逃げ切りV
2015年 ザ・プレジデンツカップ
期間:10/08〜10/11 場所:ジャック・ニクラスGC(韓国)
韓国開催だった アジア初の「プレジデンツカップ」を検証する
着陸態勢に入った航空機の窓から見えたそれは、整然と区画されたテーマパークのようだった。朝鮮半島の西海岸沿い。2010年にオープンしたジャック・ニクラスGCコリアは、幾何学模様の高層ビルが並ぶ仁川広域市・松島国際都市を彩る新興クラブだった。「ザ・プレジデンツカップ」がアジア初開催となった2015年。2年に1度の国をまたいだ対抗戦を開催するにふさわしいダイナミックなトーナメントコースがお隣、韓国にあった。
ティからグリーンまで全面ベント芝の18ホール。韓国のゴルフ場と言えば、アップダウンが激しく、狭い山岳コースばかりと耳にしていたが、少なくともこのコースは様子が違った。設計者はもちろんジャック・ニクラス。フェアウェイは広大に取られているが、ラフに粘り気があり、フラットな敷地にはウォーターハザードを多く配置。グリーンにも面が複数あり、ボールを乗せた場所によってはウェッジを握るシーンも見られた。
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ショット毎に攻めるか、守るかのハッキリとした決断を迫られる。松山英樹は「(バーディを)獲りやすいところと、難しいホールのメリハリがある」と言った。ちなみに前回大会の会場、そして松山がツアー優勝を遂げた「ザ・メモリアルトーナメント」の開催地であるミュアフィールドビレッジGCも、帝王が手掛けたコースだった。
難易度もさることながら、来場者の観戦しやすさはトーナメントコースとして評価されるポイントのひとつとなる。打ち上げのアプローチが残るグリーンも多かったが、その周りがすり鉢状、スタジアム型にせり上がっており、ギャラリーは眼下で選手たちの繊細なライン読みやタッチを堪能できる。仁川空港からは自動車で30分以内(ちなみに30km超の道のりは半分以上が海にかかる橋だった)という良好なアクセスに加え、周辺にはシティホテルが高層マンションとともに乱立。選手、関係者のホテルからゴルフ場までは直線距離で3kmほどと、国際試合としてのロケーションは抜群だった。
招致関連の費用は概算で20億円前後とされている。「プレジデンツカップ」というからには開催には、国のサポートも欠かせないが、開幕前日のセレモニーには朴槿恵大統領が出席。韓国ゴルフが米PGAツアーとの“仲良し自慢”で終わらない協力体制を築いていたことがうかがえる。
プレジデンツカップはPGAツアーの管轄下で行われる。世界中のゴルフ関係者を迎える巨大テントの多くを抱えるだけの余った敷地も十分だった。数年後にはさらなる進化を遂げていてもおかしくない。大会2日目の9日(金)は韓国の祝日「ハングルの日」。週末の3連休もあって1週間で約10万人のギャラリーを飲み込んだ。「日本でこの規模の大会が開催できるコースがいくつあるだろう…」とは、日本からの関係者の声だった。
ただ、今大会では心底残念に思うこともあった。ギャラリーのマナーである。スマートフォンのシャッター音が鳴りやまない。ボランティアに声を張り上げて注意され、一旦はそれに応じてもまたパシャリ。韓国ツアーではロープで観戦エリアを区切ることが少ないといい、容赦なくロープをかいくぐってコース内に立ち入る観客もあった。PGAツアーや日本ツアーではほとんどありえない光景だが、それをしていたのがすべて韓国人ギャラリーとも限らない。欧米人や日本人の姿も見受けられた。
毎年中国で行われる「WGC HSBCチャンピオンズ」などでも同じ光景は日常茶飯事。欧米の選手たちは普段の主戦場で同じことがあれば怒りをあらわにする。しかし彼らは、こういったプロゴルフ観戦における途上国では異なった態度をとる。呆れる気持ちを通り越すのか、「マナーの悪いギャラリーはあるべき障害物」として状況を受け入れてプレーするのだ。世界のトップの本物のプレーを見たい、と願うギャラリーにとって、これ以上悲しいことはないだろう。
この点に関しては、「これが日本ならきっと違う」とも小さくない自信を持って言える。ハードではアジアの新興地域に追い越されている一面があるが、開催ノウハウや観戦マナーといったソフト面では日本はやはり先進国のひとつだと改めて思った。
日本は年間のゴルフツアーがひとつの国で完結している数少ない国で、その歴史も長い。仮に、プレジデンツカップを開催しようにも、トーナメントが続く秋の自国ツアー日程調整はきっと大きな問題になるだろう。それでも、こういった巨大トーナメントへの細かな評価や検証は欠かせないはずだ。なにせ5年後には、東京五輪を控えているのである。(編集部/桂川洋一)
桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw