全米オープンの知っておくべきアラカルト
今季のメジャーを巡る物語は、由緒あるオークモントCCで再開の時を迎える。わずか7週間でゴルフの4大大会のうち、3大会が開催される今夏の前代未聞とも言える過密スケジュールは、今週の「全米オープン」から始まるのである。では、ここにその内幕を紹介しよう。
■ 2015年大会を振り返る
チェンバースベイGCで開催された昨年の「全米オープン」は、ジョーダン・スピースがメジャー2連勝を遂げて幕を閉じたが、それは彼が16番でバーディを奪いつつ、17番でダブルボギーを叩き、その上で最終ホールをバーディで締め括るという劇的な幕切れだった。
最終日を「69」でラウンドし、通算5アンダーとして同胞のダスティン・ジョンソンと南アフリカのルイ・ウーストハイゼンに1打差をつけて優勝を飾った米国のスピースは、1923年のボビー・ジョーンズ以来の「全米オープン」最年少王者となった。
ヨーロピアンツアーメンバーの最上位はウーストハイゼンの2位だったが、同胞のブランデン・グレースも4位タイで大会を終える躍進を遂げ、彼が世界最高峰の選手たちを向こうに回して十分戦えるだけの素質を持っていることを証明した。グレースはその後、昨年の「全米プロゴルフ選手権」でも3位に入る活躍を見せた。
シェーン・ローリーはチェンバースベイでロリー・マキロイとジェイソン・デイに並ぶ9位タイに入り、メジャー全体では2度目、米国開催のメジャーでは自身初のトップ10入りを記録した。
■ 一口サイズの大会史
毎年2番目に開催されるメジャーがオークモントで開催されるのは、2007年以来通算9度目のことであり、前回オークモントで開催された2007年大会はアンヘル・カブレラがタイガー・ウッズとジム・フューリックに競り勝ち、メジャー2勝のうちの最初の勝利を手にした。
彼は、1994年にオークモントで開催された「全米オープン」を制したアーニー・エルスに続いて優勝したことで、ヨーロピアンツアーメンバーによるオークモント開催の「全米オープン」2連覇を達成した。この功績により、2人にはヨーロピアンツアーの名誉生涯メンバーシップが授与された。
この10年間、「全米オープン」はヨーロピアンツアーの選手にとって実りの多い大会となっており、欧州勢は2010年以降の6大会中4大会で優勝している。
グレーム・マクドウェルはペブルビーチGLで開催された6年前の大会で、キャリア唯一のメジャー制覇を果たしており、その翌年は彼の友人で同胞のロリー・マキロイがコングレッショナルCCで「全米オープン」初制覇を遂げた。
2013年にはメリオンGCでジャスティン・ローズがウェブ・シンプソンをかわして王者となり、イングランド人としては1970年のトニー・ジャクリン以来の「全米オープン」制覇を果たした。そして、その翌年はマルティン・カイマーがパインハーストNo.2で「全米オープン」を制し、メジャー勝利数を2勝に伸ばした。
■ 2016年大会のフィールド
今週は世界屈指の選手たちが余すところなく“米国で最も古くからトップランクされるゴルフコース”と称されるオークモントに集結するわけだが、ヨーロピアンツアーからは48人のツアーメンバーがペンシルベニアでティアップすることになる。
これには、もちろん世界3位のロリー・マキロイと「マスターズ」王者のダニー・ウィレットが含まれる。
出場するヨーロピアンツアーメンバー48人の中では、12人が前回オークモントで開催された2007年の「全米オープン」に出場している。カブレラ、ルーク・ドナルド、エルス、セルヒオ・ガルシア、レティーフ・グーセン、ピーター・ハンソン、ソレン・ケルドセン、マクドウェル、ローズ、シャール・シュワルツェル、ジーブ・ミルカ・シン、そしてリー・ウェストウッドがその12人にあたる。
一方、ヨーロピアンツアーメンバーで今回「全米オープン」初出場を果たすのは、キラデク・アフィバーンラト、ティティプン・チュアヤプラコン、エミリアーノ・グリージョ、アンドリュー・ジョンストン、ミカエル・ルンドベリ、セバスティアン・セーデルベリ、ガリー・スタール、ミゲル・タブエナ、ロマン・ワッテル、そしてクリス・ウッドの10人である。
■ コース
ピッツバーグ北西の郊外に位置するオークモントCCは、アレゲニー川の岸辺に佇む名門コースであり、7ホール(2番から8番ホール)がペンシルベニア高速道路で分断されている。
「全米オープン」が開催される他のコース同様、オークモントも極度に難しいことで知られ、最後にこのコースでの「全米オープン」を制したカブレラの優勝スコアは通算5オーバーだった。
当時、オークモントの深いラフで手首を痛めたフィル・ミケルソンは、コース再訪を前にした先週、「僕らがこれまでプレーしたゴルフコースの中で本当に一番難しいコースだと思う」と述べた。
2007年のデータを振り返ってみると、ティショットは飛距離ではなく精度が特に重要であることが分かる。9年前は大会に先駆け、コース内にある7,000本の木々が伐採されたが、それ以降、更に7,500本の木々が伐採され、コースの劇的な地勢と急峻な外観が露になった。
パー70のコースは全長7,219ヤードと、2007年より11ヤード短くなったが、パー5の12番は667ヤードに延長され、オリンピッククラブの16番ホールに次ぐ、「全米オープン」以上2番目に長いホールとなった。
グリーンはまたしてもとんでもない速さになることが見込まれるが、興味深いことに、グリーンの速度を計測するスティンプメーターは、1935年にオークモントで開催された「全米オープン」の、グリーンのあまりの速さに憤ったエドワード・S.スティンプソンが、彼の言い分を証明するために発明されたのである。全米ゴルフ協会は、今週のグリーンがスティンプメーターで14フィートを計測することを望んでいる。
■ 鍵となるデータ
・オークモントCCは米国のゴルフ史に於いて唯一無二の存在と言える。同コースで「全米オープン」が開催されるのは今回で9回目(これまでは1927、1935、1953、1962、1973、1983、1994及び2007年に開催)となるが、これはどのコースよりも多い。
・オークモントで開催された1973年の「全米オープン」では、ジョニー・ミラーがメジャー史上初の「63」をマークし、歴史にその名を刻んだ。
・「全米オープン」史上、上がり36ホールの最小スコアはラリー・ネルソンの保持する「132」であるが、これは彼が優勝したオークモントでの1983年大会で達成された記録である。
・1953年、ベン・ホーガンは出場したこの年のメジャー全3戦で優勝を飾っており、オークモント開催だった「全米オープン」はサム・スニードに6打差をつけて勝っている。その9年後の1962年にはジャック・ニクラスがオークモントCCで「全米オープン」初制覇を遂げているが、これはニクラスにとってのプロ初勝利でもあった。
・今年、ジョーダン・スピースがタイトル防衛に成功すれば、1988年から1989年にかけて「全米オープン」を連覇したカーティス・ストレンジ以来の快挙となる。