ファジー・ゼラー:メジャー・タイトル&初優勝記者会見
ついにワトソンが勝った。シニアの文字が付いているが・・・
傾きかけた初夏の日差しの中で大きな銀のカップを掲げてみせるとき、トム・ワトソンは少し苦労しているようだった。第62回シニアPGAチャンピオンシップに勝利し、自らの名前を刻んだアルフレッド・S・ボーン・トロフィーは予想よりも重かたようだ。6,904ヤードのリッジウッドCCで行われた4日間、ワトソンは72-69-66-67のトータル274、14アンダーでフィニッシュした。入れば首位に並ばれるというジム・ソープのバーディパットが最終18番のホールの左をかすめて抜けていったとき、ワトソンの心には取り留めのない思いが広がっていただろう。
彼の顔に広がるほほえみは中西部の平原と同じくらい広大だった。長年カンザスシティーに住み続けている彼にとっては慣れ親しんでいるものに違いない。しかし、シニアツアーでこれまで23試合に出てこれが3勝目というのはいささか寂しい。もちろん今回の勝利はまったくめでたいが、ワトソンにとってのPGAチャンピオンシップの思い出を考えれば、ほろ苦さも感じさせるものだ。ゴルフ史上5人しかいない生涯グランドスラム達成者の仲間入りをワトソンに許さなかったメジャーなのだから。
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「私はPGAに勝利しましたが、勝ち取ったのはワナメーカー・トロフィーではない」とワトソンは言った。
「私のはボーン・トロフィーです。今年、ワナメーカーをとるためにプレイすることになるけれども、ウッズという名前の坊やが立ちはだかっている。だから、私はこの試合に勝てたことがべらぼうにうれしい。とてもしあわせなことです」
どこか物足らなそうにも聞こえる彼の言葉。ワトソンにとってはPGAオブ・アメリカ、全米プロという伝統の試合に勝つチャンスは何度もあったのだ。28回出場して、トップ10にはいること10回。つい去年、2000年のバルハラGCでも9位。その結果2001年の出場権も自動的に得て、今年8月はアトランタへ行くのだ。10回のトップ10のうち2回は、5位以内に入っている。最も悔しかっただろう年は1978年のオークモントCC。3人によるプレイオフの末、ワトソンとJ・マハフィーが破れ、ジェリー・ペイトが勝った。
「少しは埋め合わせになりますね」とワトソン。 「私は何度もワナメーカー・トロフィーに手が届きそうで、78年には目前で逃しました」その逃し方のおかげで、あの試合が最も痛手だったとワトソンはいう。
「あのオークモントで、私は大きくリードしてバックナインに入りました。でも、あのときのようなことにあらかじめ備えることは私はできない」
10番ホールでワトソンのティショットはフェアウエイのディボットに入っていた。
「あのホールではいつでもティショットで距離を稼いでおくという攻め方をしていました」
10番パー4はグリーン奥よりも手前にトラブルが多い難しいホールである。
「私はダフリ気味のショットをして、結果はダブルボギーになった。マハフィーの方はバーディ」
全米オープンに勝ち、マスターズには2度優勝し、そして全英オープンには5度も勝利しているワトソンにとって、PGAチャンピオンシップだけは唯一の、永遠に失われた財宝となるのかもしれない。2度目の出場となったシニアPGAチャンピオンシップに勝ったワトソンは、その落胆こそ見せなかったが。
「トムが勝ったことはよかったろう」と言うのは2位に甘んじながらも哲学的な物 言いのジム・ソープ。
「私が勝つより、シニアPGAツアーにいい羽飾りができた。トムはワールドクラスのプレイヤーだ。少なくとも、私は最高のプレイヤーに破れたんだと言えるね」
ワトソンにとっては今年のシニアPGAツアーでの8試合目だった。自分の住むカンザスシティーで開催された5月20日のTDウエアハウス・チャンピオンシップで38位タイに終わったという失意のなかで臨んだ試合だった。ただ、それ以前の試合ではトップ10に2度入っていたことが、かすかな救いにはなっていた。
「これまで、短いパットに苦しんできたわけですが・・・、今回はまずまずのパッティングでした。私のシニアでの2勝目となった99年のバンクワンの時のように、あるいは去年のシニアツアー・チャンピオンシップの時のように、パッティングはかなり良かったのです」
ショートパットとなるとぎこちなくなってしまうようなことは、だんだんなくなってきていると、ワトソンは言う。リッジウッドでの最終日、14番パー5でスリーパットが出たが、一度きりの不意の不調でしかなかったのだろうか。ソープがバーディにしたので、ワトソンは3打のリードをたった1打にしてしまったのだったが。
4日間を通してワトソンはドライバーとアイアンの正確なショットを放ち続けた。それは、これまでのキャリアを通じてそうだったとおりだ。狭くて雨でびしょぬれのフェアウエイを捉える率は75%、小さくて軟らかなグリーンを捉えること78%。ワトソンの総パット数はソープと同じ112だが、ワトソンの方がアプローチでグリーンを捉える回数が3回だけ多かった。3日目の最後の5ホールでは一気に5連続バーディを決めて見せ、翌日の最終日の最初の10ホールでもワトソンは9アンダーだったのだ。遅いグリーンが潜在的なパッティングの問題を矯正してくれたのだろうと彼は言う。
「かなりパッティングがうまくいっていると感じていました」 ジム・ソープに一打、ボブ・ギルダーに2打の差をつけてワトソンは優勝賞金36万ドル(約4,320万円)を手にした。グリーンが軟らかかったおかげで16人がアンダーパーだった。最終日は、ワトソン、ギルダー、ソープの三人が首位に並んで迎えた。
「彼は必要なパットを決めたのさ」とソープ。 「私は自分のゲームをコントロールできていた」と語ったワトソンの決勝2日間は、 66-67という見事なものだった。
誰にも異論はない。たとえ、いまワトソンの手中にあるのがワナメーカー・トロフィーではないとしても。(GW)