2012年 全英オープン

【WORLD】同情なんかいらない/L.ウェストウッド ストーリー

2012/07/17 12:50

Golf World(2012年7月16日号) texted by John Huggan

待たれるメジャー初勝利 そんな期待をL.ウェストウッドはどう受け止めるのか(Matthew Harris/GW)

昨年の「ダンヒルリンクス・チャンピオンシップ」の開催期間中、セントアンドリュースのオールドコースにある5番ティを背にしていた小さな男の子が、突然倒れた。彼はてんかんの発作を起こしていた。その場にいた誰もが、直感的に後ずさりした時、リー・ウェストウッドは前に歩み出した。ただならぬ発作を見て、周囲の人々の瞬時の反応は、ある意味自然なものといえるだろうが、2児の父でもある39歳のウェストウッドは、まるで自分の子供のようにその男の子に駆け寄った。ひきつけが終わってからも、すべて無事であることを確かめるまで、その場を動かなかった。おまけに、この小さなファンにサイン入りのグローブもプレゼントして――。

「あれには本当に感心した」と語るのは、ウェストウッドのキャディを務めるビリー・フォスターだ。「リーの素晴らしい性格が、本当の輝きを見せた瞬間だった。彼は素晴らしい思いやりの心を持っているんだ」。仲間からの敬意や称賛。どんな分野においても、それがおそらく人生における成功の、最も意味のある“しるし”だろう。

ジャック・ニクラスは、ゴルフ界で最も優雅な“敗者”であることを通じて、称賛を得た。トム・ワトソンは、自分を律する方法を通じて称賛を得たし、今年ライダーカップ主将となったホセ・マリア・オラサバルデービス・ラブIIIも同様だ。そして、メジャートーナメントの優勝なしに、ゴルファーとしては苦労しながら称賛を勝ち取ったウェストウッドもそうだ。

19年のキャリアを誇るウェストウッドは、世界で39度も優勝。そして世界ランク1位として22週を過ごし、現役で最高のオールラウンドプレーヤーとして幅広く認められながらも、まだ大舞台では“仕事を成し遂げて”いない。メジャーでトップ10入りは7度。一度も優勝せずに4大大会すべてでトップ5入りしたことがあるという、史上5人しか成し得ていない“偉業”を達成している(その他は、ジョニー・ブラ、ダグ・サンダース、ジェフ・マガートセルヒオ・ガルシア)。

2008年「全米オープン」と2009年「全英オープン」では、最終日のバック9をリードして迎えたが、プレーオフ進出に1打足りずに終わってしまった。2010年「マスターズ」でも54ホール終了時点で首位。しかしフィル・ミケルソンに逆転された。今年のオーガスタでは、第1ラウンドのリーダーで、パーオン率でも首位だったが、アプローチのミスがありプレーオフまで2打足りなかった。そして、オリンピッククラブで開催された全米オープンでは、最終日の5番ティまで首位から3打差につけていたが、ドライバーショットはプッシュアウトして右へ。ボールが木の中にはまり、ここから少しずつ調子を崩して結局10位タイに終わってしまった。

その落胆の直後、ウェストウッドは同じパターンに飲まれてしまったことを認めた。「忘れようと、仕事に取りかかろうとした」とあのティショットについて話した。「だけど、頭の中に浮かぶ“くよくよした思い”が言うんだ。『Oh、No…また始まった』って」。

しかしその表情の中に見せる頑固さこそが、ウェストウッドが仲間のプロから称賛を受ける1つの理由でもある。そして、ロイヤルリザム&セントアンズでの優勝に向けたメジャー58度目の挑戦に対し、現在世界ランク3位の男は、再び流れをコントロールしている。「すべてのメジャーで、みんなが自分を優勝候補として考えてくれるのはうれしいことだ。“なんで一度も勝ってないんだ?”って考え込むよりも、こうやって質問をひねって見るようにしているんだ」。そんな高度な“作戦”が、ウェストウッドの処世術、そして「ライダーカップ」の欧州代表での大切なポジションを担う資質を反映している。

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