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2012年 マスターズ
期間:04/05〜04/08 場所:オーガスタナショナルGC(ジョージア州)

【WORLD】渦を巻いて選手を惑わす「マスターズ12番の風」

コース攻略法

風向きを予測するためには、過去に同コースを経験したベテラン選手やキャディーが採用した作戦を参考にするのが手っとり早い。それらはまさしく、魔術と民間伝承の融合とも言うべき方法で、噂の類や確証がない非科学的なものばかり。ただし、特定の状況で共通に認識されているものだ。最もあいまいな方法は、ホーガンが編み出したもので、ケン・ヴェンチュリに伝授した、「風が左?に吹きつけるまで待つ」というもの。

最も頻繁に参考にされている作戦としては、11番と12番のフラッグが風の影響を受け、どの方角になびいているかで判断する方法。これら2本のフラッグは、たいていの場合、逆方向になびいているため、プレーヤーを混乱させる要因となる。マスターズを6度制しているニクラスは、このフラッグ説を信じている1人で、「大事なのは2本のフラッグが同じ方向になびくまで待つこと。フォローや横向きになびくことも多いが、必ず同じ方向になびくまで待たないといけない。しばらく時間を必要とするかもしれないが、必ず同じ方角になびく瞬間があるから、待つんだ」と語っていた。

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ハンター・メイハンもフラッグ説を信じる1人で、「短いクラブを使うわけだから、どうしたってボールは高く上がる。つまり風の影響をダイレクトに受けるということだ。だからこそ、できることなら自分が、『今だ!』と思うまでは待って打ちたい」とした。
それ以外の方法として知られているものには、12番ホールのすぐ隣、13番ホールにある木々の先端付近が風でどう動いているか注視するというもの。1979年に優勝したファジー・ゼラーは、「木々の動き方で風向きが予測できる」と話していた。そのゼラーや、サンディ・ライル、ヒューバート・グリーンのキャディーを務めてきたカーは、「13番ホールの木々こそ、スニード、サラゼンや歴戦のオールドタイマーたちが参考にしてきた攻略法」と付け加え、ヘイル・アーウィンも、「13番を参考にする攻略法は、いつも機能した。マスターズには何度も出場していて、何度も池に落としたけれど─落としたことのないやつはいるのか?─バーディを何度も記録した経験もある。その要因になったのが13番の木々だったんだ。信頼性が高いよ」と同意している。

そのほかにも、広範囲に吹き荒れるこの風に対する攻略法を編み出した連中は多く、中にはトム・カイト(1986年2位タイ)のように、大会時期は南西から吹くことの多い風によって雲(特に低いとき)がどう動いているかで判断するというプロも存在する。この方法を参考にしているというバッバ・ワトソンは、「木や林で風がブロックされている以上、キャディーに風向きを確認してもらっている。それを信じているよ。フラッグ、木々、ほかにも参考にする情報はあるけれど、極力意識からは排除するようにしている。実際に排除することは難しいけれどね。ただ、ティショットをなるべくドライな場所に持っていきたいとは思っているよ」とし、自分なりの攻略法を作っているようだ。2011年には初日と2日目で12番でダブルボギーを叩いたワトソンだったが、3日目にはバーディを記録。ティショットをピッチングウェッジで打つ工夫を凝らしていた。

1987年、グレッグ・ノーマンとの死闘を、プレーオフでの11番のスリリングなホールアウトで制したラリー・マイズは、タイガー・ウッズと同様に芝生を空中に投げて風向きを予測する手法を取った。「ただし、12番のティー付近でやっても意味はないよ。11番のグリーンでやるんだ。その位置からのほうが12番のグリーンに近いし、より正確な風向きを判断する材料になるから」。

そしてケースバイケースという事例も存在する。1977年、1981年に優勝したトム・ワトソンは、過去一度も攻略法を明かしてこなかった。「オーガスタの風は、私がプレーしたコースの中で最も難しいものだ。練習場では北西方向から吹いていた。つまり、14番、17番ではフォローのなかでプレーするということだったのだが、風が強く顔に向かって吹いていたよ。常に風向きは変わるわけだから、その時感じたことを信じてプレーしていた」。
もう1人、この大会で2度優勝(1984、1995年)しているベン・クレンショーは、最終的な結論を下すまで時間をかけるタイプだったという。「私のキャディーはオーガスタ出身のカール・ジャクソンで、彼は何千回とオーガスタでのラウンドを経験している。2人で話し合って決めているように思うかもしれないが、数年前の風が強かった日、彼にどのクラブを使えばいいか助言を求めたら、『クイック8』と言ったんだ。彼が意味したのは、今この瞬間だけ、8番アイアンでいけるということ。思わず笑ってしまったよ」と当時を振り返った。歴史にも詳しいというクレンショーは、12番が建設された土地が、もともとアメリカ大陸先住民の埋葬地だったと教えてくれた。1931年の建設当時、地中から墓地だったことを証明する文化的な物が発見されたという。「だからかもしれないけれど、時には迷信じみたことを言う連中もいる。ボールが風に押し戻されて池に落ちると、『彼らの魂に呪われた』とね」。

そして物質的ではなく、風の影響を精神論的見解で分析するプロもいる。1985、1993年優勝のベルンハルト・ランガーは、ニクラスが提唱する適切なタイミングを待つという手法とは反対に、「もし5分も待っていたら混乱してしまう。20~30秒待って、くるくると回る風向きが変わらなければ、私は適切と思われるクラブより長いクラブをシンプルに選択する。もし8番アイアンなら、7番アイアンという具合に、ボールの弾道を低くする努力をする」と自論を展開。このオーバークラブ論を実際に試しているプロも多く、ランガーは、「フリンジからならバーディが狙える。短めより、長めに打つほうがベターだと常に言ってきた。誰だって、池に落とすよりはいいと思うはずだからね」と続ける。

そして、この風による影響を宿命的と捉えるプロも存在する。今年のマスターズ優勝候補の一人とみられているスティーブ・ストリッカーは、「なるようにしかならない。賭けみたいなものだ。同じペアリングの選手が先に打ってくれれば何かの参考になるかもしれないけれど、もしオーバーしたり、手前の池に落ちたりした場合は、後の選手は判断するのが難しくなる」とコメント。1989年にニック・ファルドとのプレーオフで敗れたスコット・ホークは、「地元出身のキャディーを雇えば、対策法が見つかると思っていたんだ。でも彼は、他の人がやるように、芝生を空中に放るだけ。地元出身者の知識もあてにならないと思ったよ」と、予備知識の無力さを訴えた。1992年に優勝したフレッド・カプルスは、ティショットが幸運にも12番の傾斜に残り窮地を脱出。しかし、「12番の結果が良くても、悪くても、大した差はない」と話し、まったく風の影響を気にしていない。

オーガスタの12番に吹く風は、常に気まぐれな不確定要素として選手たちのショット、そしてメンタル面に少なからず影響を与える一要因でありつづけるだろう。ケイス・カーは、ここ数年間で選手たちが見せる反応にある共通点を見つけたと語ってくれた。「火曜日、選手はキャディーに、『7番アイアンだよね?』と質問してから打つ。それが金曜日になると、『7番、それとも8番アイアンかな?』に変わって、日曜日にグリーンジャケットの袖に腕を通せるチャンスがある選手になると、『どのクラブを使えばいい?』に変わっていくんだ」。

米国ゴルフダイジェスト社提携
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