【WORLD】オーガスタのことならジャックに聞け。ニクラスの影響力
2012年 マスターズ
期間:04/05〜04/08 場所:オーガスタナショナルGC(ジョージア州)
【WORLD】渦を巻いて選手を惑わす「マスターズ12番の風」
気象学から見るオーガスタスタイル
風が12番ホールにとって、ステロイドなみの影響力を持っていることは明白だ。この気象条件により、このホールの平均スコアは3.29とコース2番目の難易度。ザ・プレーヤーズ選手権開催コースであるTPCソーグラスのアイランドグリーンの17番ホールが3.12なのだから、いかに難しいかがわかる。オーガスタのその他のホールは、距離が毎年のように長くなり、気象条件とは別の理由で難易度が高いコースとして知られている。マスターズで使用される12番のヤーデージは、過去70年間、155ヤードに設定されているが、日によって条件が大きく変わる土地の特徴だけで、同コースの他ホールと同様のタフなホールとなっているのだ。
サム・スニードは以前、この気まぐれな微風を「くるくる回る風」と形容したことがあった。これは単純に気象条件だけではなく、地理的要素も含まれている可能性を示唆している表現だ。実際、12番はマスターズの中で最も高度が低い位置に作られている。クラブハウスはそこからわずか北に1000ヤード(約914m)しか離れていないが、12番より175フィート(約53m)高い位置にある。そして隣のオーガスタカントリークラブのクラブハウスは南に1000ヤードの距離にあり、高度はオーガスタナショナルのクラブハウスと同等。つまり、12番は大きな流し台の排水口のような位置に作られているわけで、アーメンコーナーの内外の風向きに大きな影響を与えていると考えられる。
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1982年に、ウェザーチャンネルでの初めての気象番組に出演した、気象学者で熱心なゴルファーのブルース・カリノウスキー(当時はブルース・エドワーズという名だった)は、「オーガスタに吹く風は1つのファクターであって、常に最大の要因になるとは限りません。風を無効にしたり、逆に大きくしたりする天候の特徴を持っているのがオーガスタ。クラブハウスの近くでは高い気圧の影響で気温が上がることもあるし、アーメンコーナーでは気圧が低いことで気温が下がることもあります。冷たい空気は沈む傾向にありますが、大自然は常に平等な条件を地球に与えようとしますから、時には冷たい空気が上昇することだってあり得るんです」と説明した。
アトランタ近郊に住むカリノウスキーは、「暖かくて穏やかな気候であっても、ゴルフコースにはバンカー、それに湿ったフェアウェイが熱を放出し、それが蒸発することで気象条件に変化を与えます」とし、18年間、ウェザーチャンネルで12番ホールのコンディションを見てきた経験を語ってくれた。
「13番と11番のフェアウェイから12番、そしてオーガスタカントリークラブに向かって同時に風が流れることを感じることができます。風が地形や木々に当たって方向が変わり、それで渦を巻くようになるんです。ある特定のポイントでは穏やかな風でしょうが、たった100ヤード離れた場所では強風になることもあります。オーガスタが開催される季節では、コースを取り巻く気象条件が一定にならないのです。ジェット気流でさえもオーガスタの気象に影響を与える高度にまで下がることもあるでしょうね」。
つまり、風はなんでも起こすということだ。最高のショットを打ったとしても方向が変わり、一転して選手にショックを与え、前かがみになって悔しがる状況を与える可能性もあるということだ。「私が最初にこのホールでプレーしたのは1959年だった」というのはジャック・ニクラス。「ロジャー・マクマナスというアマチュア選手と一緒だった。彼が最初に打ったんだが、6番アイアンでグリーンに乗せた。それで私は7番アイアンを選択したのだが、クリークのずいぶん手前までしか届かなかった。それが私と12番の風との出会いだった」。
同じくゲイリー・プレーヤーも、12番との出会いについて次のように語っている。「オーガスタで最初にプレーした時は、ベン・ホーガンとサム・スニードがいた。ホーガンは7番アイアンでグリーンを超えてしまったが、こっそり彼のバッグをのぞき込んだスニードが(彼はいつだって他人のバッグを覗く)8番アイアンを使ったら、池に落ちた。12番の風を目の当たりにした最初の状況としては最悪だったね。彼ら2人はゴルフ史上に残る偉大なボールストライカーなのに、1人はグリーンを超えて、もう1人は池に落ちたわけだから。たまらなくなって、『なんだよ! このコースは何かにとりつかれているんじゃないか?』と口走ってしまったほどだった。それから何年も経つけれど、誰もが私の意見を信用してくれるはずだよ」。