【WORLD】オーガスタのことならジャックに聞け。ニクラスの影響力
2012年 マスターズ
期間:04/05〜04/08 場所:オーガスタナショナルGC(ジョージア州)
【WORLD】渦を巻いて選手を惑わす「マスターズ12番の風」
Golf Digest(2012年4月号) texted by GUY YOCOM
オーガスタナショナルの12番ホールは、“自然の「流し台」”の一番下に位置。不安定でクルクルと回る風のため、ゴルフ界で最も恐ろしい155ヤードとなっている。
もしテレビカメラがマスターズ最終日に12番パー3のティーに常設されていたとしたら、上位選手が首を何度も捻り、天を見上げる映像を見るにちがいない。なんとか冷静に己を保とうとする努力をしたり、もしくは自らに何かをつぶやいたりする選手も多いかもしれない。仮に天候が穏やかであったとしても、試合展開を劇的に変える要素となる風については、敏感にならざるを得ない。くるくると方向が変わる風向き。かと思えば強風が吹き荒れ、12番のグリーン周りに生えている木々から突風が吹いてくる。この155ヤードのホールでは、厄介な池、バンカー、林、ベアグラウンドという脅威だけではなく、ツルツルのバンクという難所も揃っている。だが、このコースで一番短いパー3をメジャー大会の中でも屈指とされるほど難易度の高いホールにしている要因は、やはり風だろう。
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では、この風がどのくらいの影響を与えているのか? 1956年のマスターズでは、ボブ・ロズバーグが強いアゲンストを考慮し、4番アイアンを選択。しかし、バックスイングのトップの瞬間に風がぴたりとやみ、ロズバーグのボールはグリーンを超えたばかりか、奥の傾斜、さらにはその奥のフェンスと木々をも超えていき、オーガスタナショナルに隣接するオーガスタカントリークラブの9番ホールにまで到達してしまった。それでもロズバーグは次の打ち直しのショットも4番でトライ。カップから10フィートにつけ、その後2パットで沈め、ダブルボギーを叩いた。
最近のケースはここまで極端ではないにせよ、それでも多くの選手はグリーンを超え、グリーン奥にある松やアザレアの林に打ち込んでしまう(グレーム・マクドウェルは2011年にボールを見つけることができず、1999年にはグレッグ・ノーマンも同じ目に遭った)。その他は、ショートしすぎて池に落ちるケースが多々(カウントできないくらいの球が池に入っている)ある。これほどミスが連発している以上、風がその原因になっていると考えるのが自然ではないだろうか。オーガスタで4度2位となったトム・ワイスコフは、1980年に12番で5度も池に打ち込み、13の大叩きを記録。「短いショットで、ティーも使える。今の選手たちは、グリーンまでの距離を測ることができるようになったし、クラブもボールも進化しているしね」と語るワイスコフ。「8番アイアンでトゥに当たったりしているわけじゃないんだ。だから、10ヤード短かったり、15ヤードもオーバーしたりしたら、それは風が影響していると考えられると思うね」と続けた。
ワイスコフによれば、13を叩いた日は風がまったく吹いていなかったようだ。実際は、難しい風が吹き、ポストカードに写っている光景からは想像もできないような風が、そこにはある。マスターズで使用するティーグラウンドは、メンバーが使用するものよりも少し低いところにある。部分的にグリーンのシルエットを隠し、すべてを把握させない工夫がされているというわけだ。
グリーン手前のバンカーは、見た目には難易度が高くないかもしれないが、この22年間続けてマスターズでキャディーを務めたケイス・カーによれば、毎日朝早くグラウンドクルーが水をまき、バンカーからのショットの際、少しボールが飛ぶように調整されているという。そしてグリーン奥にある2つのバンカーは、グリーン面よりも高い位置にあり、下り傾斜になっているため、2打目が「レイズクリーク」に入りやすくなっている。さらにグリーン左側の芝とその後方部分の上は木々で覆われているため、その地面は水分が蒸発しきっておらず、左に逃げた選手には芝が薄く、不快なライが残る。そしてグリーン手前にある芝が生い茂った土手は、いつもきちんと刈りそろえられており、ちょっとでもショートしたらレイズクリークに転げ落ちる。
また、これまでも細くくびれた形状だったグリーンは、年々サイズが縮小され、そのウェスト部分は狭くなり、幅が10ヤードしかないところもある。世界トップの選手であっても、狙いどおりにボールを寄せることは至難の業と言える。1986年の3日目でコースレコードの63を記録したニック・プライスは、このグリーンについて、「右方向に斜めのグリーンで、ボトムからトップにかけて傾斜のあるグリーンは、どれだけレベルの高い右利きの選手にとっても非常に難しいと思う」と形容。さらに、「頻繁に見られるミスの傾向としては、左へのオーバー、もしくは右にショートするというもので、これこそ12番ホールが難しい理由だ。私は、要求される高いレベルのメンタリティーをなんとか持続させられた。風の影響云々よりも、強い精神力を持っていないと、悪いショットの連鎖からは解放されない」と語った。
左に大きく外れるショットを打ったワイスコフは、「池を超えたからと言って、ダブルボギーを打たないことにはならないよ」と、おどけてみせた。