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<佐渡充高の選手名鑑 62>カイル・スタンリー

■ 逆転劇が頻発する「ウェイストマネジメント フェニックスオープン」

今週の「ウェイストマネジメント フェニックスオープン」はアリゾナ州フェニックス郊外に位置するTPCスコッツデールが舞台となる。砂漠地帯に作られたコースはサボテンが点在し、ラフの茶色とオーバーシードされたフェアウェイのマニキュアグリーンのコントラストが、荒野の決闘という雰囲気を醸し出している。今大会は逆転の多い大会でも知られており、3年連続逆転優勝で幕を閉じているのだ。2010年はハンター・メイハンが4打差を逆転、2011年はマーク・ウィルソンが1打差を追いつき、プレーオフでジェイソン・ダフナーを下した。そして2012年は飛ばし屋のカイル・スタンリー(25)が8打の大差を逆転するというエキサイティングな展開が繰り広げられた。首位で最終日を迎え、スタンリーに大逆転負けを喫したスペンサー・レビンは、試合後、悪夢に襲われたかのように呆然とし、見ている側も、逆転の迫力と怖さを思い知らされた気がした。

■ 逆転し返したスタンリー

大逆転優勝を果たしたスタンリーは、前の週に開催された「ファーマーズ・インシュランスオープン」で7打差の逆転負けを喫し、失意のどん底に落とされた選手だった。3打リードで迎えた最終日最終ホールは、易しいパー5。ダブルボギーでも優勝という条件なので誰の目から見てもスタンリーの優勝は確実に思えた。注意すべきはグリーン左手前の小さな池だけだ。スタンリーは飛距離が自慢の選手。ティショットを成功させた彼は、2オンも十分可能だった。しかし、池に入れないことを肝に銘じた彼は、池の手前に刻んで3打目勝負の攻略を選択。その3打目はピンの約5メートル上に落ち絶妙な距離感に見えた、が、バックスピンと傾斜でどんどん手前にボールは戻り、池に転がり込んでしまったのだった。土壇場でトリプルボギーにし、まさかのプレーオフ。頭の中が真っ白になった彼は2ホール目でボギーを叩き、優勝をブラント・スネデカーに譲ってしまった。優勝者に贈られる小切手には彼(スタンリー)の名前が記入され、中継局もエンディングに入る体制でいた。まさかの結末に多くのファンから激励のメッセージが届けられた。優勝したスネデカーもスタンリーのことを案じ、「フェニックスオープン」では直接激励の言葉を贈った。「みんなの温かい気持ちに勇気づけられ心から感謝している。その思いに応えるには、自身の今後のためにも奮起するしかない」と誓って挑んだのが今大会だったのだ。

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■ スタンリーという男

1987年11月18日、ワシントン州生まれの25歳。ゴルフの名門クレムソン大学の出身。「全米オープン」優勝のルーカス・グローバージョナサン・バードの後輩だ。2009年にプロ転向し、翌年はウェブドットコムツアーでプレー。持ち味は飛距離で、その年の平均飛距離は317ヤードで1位。シャイで口数の少ない男だ。「フェニックスオープン」で逆転優勝した時は、強烈なガッツポーズで気持ちを爆発させたが、直後の会見ではうれし涙が止まらなかった。

■ 最終4ホールが運命を変える

逆転劇が多いのには理由がある。最終ホールはリスクを乗り越えれば、大逆転が可能なようにセットされている。15番は2オン可能なパー5で、フェアウェイ左サイドは池、さらにアイランドグリーンなど、気を抜けないホールであり、イーグルもあればダブルボギーの危険も孕んでいる。16番は4万人を収容できるスタンドに囲まれたパー3だ。“16番スタジアム”と言った方がいいかもしれない。成功か失敗かで、ギャラリーの歓声がブーイングに変わるプレッシャーが選手たちを襲う。17番は1オン可能なパー4。グリーン左側が池でここもイーグル、ダブルボギーのリスク&リワードのホールとなる。18番はフェアウェイ左の池が効く。首位の選手は逃げ切れるかのプレッシャーを乗り越えなければならず、最後の4ホールでスコアを伸ばした選手が優勝できるようになっている。

佐渡充高(さどみつたか)
ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。

関連リンク

2013年 ウェイストマネジメント フェニックスオープン



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