PGAツアー23年シーズンギア10大ストーリー(前編)
2023年 ライダーカップ
期間:09/29〜10/01 場所:マルコ・シモーネGC(イタリア)
「ライダーカップ」で欧州選抜にとって鍵となる5本のクラブ
米国選抜と欧州選抜の対抗戦「ライダーカップ」は、ゴルフにおいて最も精査される大会と言えるだろう。開幕を待つ日々は、キャプテン推薦やペアリング、ユニフォームや髪型までが、ファンやメディアにとって分析や調査のネタとなる。
ライダーカップ開幕の金曜日(9月29日)に最初のティショットが放たれるまで、分析には多大な時間が費やされ、関連番組のオンエアには長い時間が割り当てられるのである。
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しかしながら、全ては各チームのためにプレーする12人のパフォーマンス次第。ひとたびプレーが始まれば、準備してきた全てのことは問題の範囲外となる。極度の緊張の中で、最高のプレーができたチームが成功を収めるのだ。
今年の舞台は、イタリアで初開催となるローマのマルコシモーネG&CC。この独特のコースは、選手たちに肉体と精神の両面で試練を与えることになる。近年の水準に照らし合わせると距離が長いわけではないが、起伏に富んだ地形が難度を高めている。ティショットをラフへ打ち込んだ選手たちに罰を与え、複数ある危険と報酬が隣り合わせのホールレイアウトは、ラウンドを通して選手たちにあらゆる判断を迫ることになる。2オン可能なパー5があり、複数のパー3とパー4でグリーンを狙うショットの距離が長くなることから、ロングアイアンは特に重要性を帯びるだろう。
ロリー・マキロイ(北アイルランド)はポッドキャスト“サブパー”のなかで、「僕らは米国選抜にウェッジやショートアイアンを握らせないようにしたいんだ。それが彼らの得意分野であることは分かっているから。もし僕らがドライビングや、ミドルアイアンからロングアイアン、さらにはパッティングの勝負に持ち込むことができれば、勝つチャンスは大いにあると思う」と述べている。
以上を踏まえた上で、2年前に米国選抜に屈した欧州選抜の勝利への鍵を握るであろうクラブを列挙してみた。
1. ジョン・ラームのパター
クラブ情報:オデッセイ ロッシー プロトタイプ
2021年以来、ジョン・ラーム(スペイン)は銀色のマレット型でカスタムビルトのオデッセイ ホワイトホット OG ロッシーS パターを使用し、メジャー2勝(21年「全米オープン」、23年「マスターズ」)を含むPGAツアー6勝を挙げた。
しかし、ラームは最近の大会では別のパターを使用している。DPワールドツアー(欧州ツアー)「BMW PGA選手権」で、パターを黒いオデッセイのプロトタイプに変更。ヘッド形状はそれまで使用していたロッシーSと同じながら、ソールには青い装飾が入り、黒いインサートが装着されている。
果たして銀から黒への変更は、ラームのライダーカップにおけるパフォーマンスにインパクトをもたらすのだろうか? 少なくとも、4位に入ったウェントワース(BMW PGA選手権)では機能していたようだ。ラームがPGAツアープレーオフの全3戦で、フィールドの後ろ半分の順位だったことを考えると、欧州選抜キャプテンのルーク・ドナルド(イングランド)にとって吉兆と言えるだろう。ラームは今季4勝を挙げているが、マスターズが直近の優勝となっている。
2. ビクトル・ホブランのロングアイアン
クラブ情報: タイトリストU505(3番)、ピンi210(4番~PW)
ライダーカップには24人に及ぶ世界最高の選手たちが集結するわけだが、そんな選ばれし精鋭の中でも、ビクトル・ホブラン(ノルウェー)のボールストライキングは傑出している。PGAツアーのストローク・ゲインド・アプローチ・ザ・グリーン(グリーンを狙ったショットのスコア貢献度)で10位。平均プロキシミティ(ボールからピンまでの平均距離)は10位で、なかでも200~225ydからは8位、175~200ydからは10位にランクインしている。
ホブランはPGAツアー参戦後、様々なアイアンのセットアップを試してきたが、ピンi210アイアンは19年以降、一貫して彼のバッグに収まってきた。ライダーカップで長い距離のショットの重要性がより高まることを考えると、ホブランの能力は大きなアドバンテージとなるだろう。
ホブランが重ねてきた経験もモノをいいそうだ。21年大会にはルーキーとして出場。フェデックスカップ王者として臨む今回においては、最もホットな選手の一人である。今季は6月の「メモリアルトーナメント」を制覇すると、プレーオフシリーズ最後の2大会である「BMW選手権」と「ツアー選手権」で連勝を飾り、PGAツアーで3勝を挙げた。
ピンのツアーレップ、ケントン・オーテスは最近のQ&Aで、ホブランがi210アイアンを好むわけを次のように述べている。
「低重心と高スピン量だと思います。彼はかなりシャローな選手で、時としてスピン量が足りず、十分な頂点の高さを出せないことがあります。i210はその設計特性から、かなりスピン量が多く、とても直進性に優れたクラブでもある。このアイアンは、ストレートボールヒッターである彼の特徴を引き立たせるのです」
3. ティレル・ハットンのアイアン
クラブ情報: ピンi230(4~6番)、ピン ブループリントS(7番~PW)
ハットンのグリーン周りは、ほぼオートマチック状態である。PGAツアーにおける20~30ydのスクランブリング(グリーンを外したホールをパーかバーディで上がる確率)で2位に、10yd以内では6位にランクインしている。
しかし、マッチプレーとなると、グリーン外から寄せワンでパーをセーブすることはストロークプレーほど重要ではない。通常、ライダーカップでホールを奪うにはバーディが必要なのである。
ハットンはストローク・ゲインド・アプローチ・ザ・グリーンで28位にランクインしているが、特にラフからのショットを得意としている。ラフからのアプローチショット(グリーンを狙ったショット)の平均プロキシミティでは、125~150ydで14位、150~175ydで22位と、どちらもトップ25入りを果たしている。
「全英オープン」の数週間前に、ハットンはアイアンをピンi230(3~6番)とピンの新しいブループリントSプロトタイプ(7番~PW)で構成された新しい混合セットへ変更している。ブループリントSアイアンはまだ市場には出ていないが、プロのバッグには姿を見せ始めており、最近ではサヒス・ティーガラが初めてこのクラブを使用した「フォーティネット選手権」を制している。
果たして、ハットンの新しい鍛造キャビティバックは、グリーンを外すミスを最小限に抑えるのか。あるいは、持ち味とするスクランブリングの技量がモノをいうことになるのか?
4. ロリー・マキロイのパター
クラブ情報: テーラーメイド スパイダーX またはスコッティキャメロンT-5.5プロトタイプ
米国選抜で選出ランキングトップのスコッティ・シェフラーと同じように、欧州選抜も傑出したボールストライキングの数字をたたき出しつつ、パッティングがそれに追いつくことを願っている選手が先頭に立っている。マキロイはストローク・ゲインド・オフ・ザ・ティ(ティショットのスコア貢献度)で2位、ストローク・ゲインド・アプローチ・ザ・グリーンで8位にランクイン。PGAツアーの平均飛距離ではトップに君臨した。
しかし、昨年3度目のフェデックスカップ制覇を成し遂げた際に、キャリアベストとなる16位にランクインしたストローク・ゲインド・パッティング(パットのスコア貢献度)は65位だった。
彼のパター選択もまた、23年を通じて注目を浴びてきた。ここ数年のほとんどの大会でマレット型のテーラーメイド スパイダーXハイドロブラストを使用してきたが、春先に開催された「WGCデルテクノロジーズマッチプレー」とマスターズでは、スコッティキャメロンのブレード型パターに乗り換えた。その後、使い慣れたスパイダーに戻している。
マキロイは5月の時点で、「僕はパッティングの調子が悪かった何週間かを忘れ去ろうと、少し反動的になり過ぎていたし、それが判断を曇らせたんだ。今は、信頼の古女房に戻したよ」と述べている。
しかし、マキロイの試行錯誤はこれで終わらなかった。フェデックスカッププレーオフシリーズ初戦の「フェデックス セントジュード選手権」で、ガレージから引っ張り出してきたスコッティキャメロンT5.5マレットプロトタイプパターに乗り換えたのである。「ツアー選手権」では再びスパイダーに戻しているが、これにはスパイダーのヘッドの長いアライメントラインが構える際の助けになるという理由があった。
出場した直近の2大会である欧州ツアーの「ホライゾン アイリッシュオープン」(16位タイ)と「BMW PGA選手権」(7位タイ)ではスパイダーを使用しており、マルコシモーネでもこの信頼するマレット型パターを使うとみられる。
5. ジャスティン・ローズのドライバー
クラブ情報:不明
現在43歳にして6度目のライダーカップ出場を果たすジャスティン・ローズ(イングランド)は、間違いなくベテランとしてリーダーシップを果たす欧州選抜の立役者となるだろう。しかし、ドライバーショットとなると、かつての「全米オープン」王者には、多少の疑問符がつきまとうことになる。
ローズは最も大きな成功を収めた6年間にあたる全米オープン制覇を果たした13年から、フェデックスカップ制覇を果たし自身のキャリアで初めて世界ナンバーワンへと上り詰めた18年までの間は、ストローク・ゲインド・オフ・ザ・ティでトップ30圏内に入っていた。
今季は「AT&Tペブルビーチプロアマ」で優勝し、4年間の無勝利期間に終止符を打ったものの、ストローク・ゲインド・オフ・ザ・ティは現在119位に沈んでいる。フェアウェイキープ率は42位、平均飛距離は132位だ。
ローズは今年、ティショットを向上させるべく、メーカーや新旧にこだわることなく色々な種類のドライバーを試してきた。これまで、かつての契約先であるテーラーメイドのM2(16年)、M3(18年)やステルス2プラス(23年)を使用。AT&Tペブルビーチプロアマで優勝した際は、ロフト角8.5度のキャロウェイ パラダイムをバッグに入れていたが、8月にはM3を使用していた。
では、ライダーカップでローズはどのドライバーを使用するのか? その答えを確かめるには、実際にチャンネルを合わせて試合を観るほかない。
(協力/ GolfWRX, PGATOUR.com)