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井上信、マンデー勝ち上がりの優勝は19年ぶりの快挙!/ABCチャンピオンシップゴルフトーナメント

「下から上りつめて勝った僕の例が、他の選手のやる気になればいい」

最後のバーディパットはどんなふうに打ったのか、あまりよく、覚えていない。2メートル近くはあっただろうか。とにかく、無我夢中だった。入れば優勝、という場面。思い返しても、「18番に、女神がいた」としか言いようがない。キャディが「スライス」と読んだパットは、実際には、フックラインを描いてカップに向かっていく。

「入れ~!!!」。背後で、仲間たちの絶叫が聞こえた。その声に、押されるようにボールが沈んだ。ガッツポーズは無意識に出た。同じ組で戦った神山隆志が、笑顔で手を差し出してきた。このオフには米国合宿に誘ってもらい、今週は同じ宿に泊まり毎晩、一緒に食事を共にしてくれた兄貴分。その手を力強く握り返すと、涙があふれてきた。

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グリーンサイドには、師匠と慕う平塚哲二や、小山内護、川原希、立山光広増田伸洋・・・。初優勝を祝って駆けつけてくれた、たくさんの仲間たち。互いに真っ赤に目を腫らしたまま、無言で肩をたたきあった。表彰式がすんだら、手荒い祝福。彼らの手で宙を舞い、18番グリーン横の池にはめられた。

2打差の単独首位に立った前夜は、興奮でなかなか寝付けなかった。苦手ホールが何度も脳裏に浮かんできて、体が火照ってくる。「あの崖下に打ち込んだらどうしよう?」何度もシュミレーションを繰り返し、ピンチを迎えた自分を想像すると、ますます眠れなくなった。

耐えかねて、夜、平塚に電話してみた。「緊張してるんです」と告げると、「勝とうと思わんでいい。お前は、まずはシード入りのことだけ考えたらいい」との答えが返ってきた。それで、少し吹っ切れた。

確かに「優勝」、なんて考えてもいなかった。川岸、神山、鈴木と並んで迎えた18番も、狙いは初シード入りの当確と、次週ツアーの出場権が確実に手に入る「5位入賞」だったのだ。

1打差の接戦にも「耐えていれば、必ず僕にもチャンスがある」と思って歯を食いしばったが、もちろん、ここで井上がいう「チャンス」とは、「優勝の」ではない。あくまでも「初シード入り」のチャンスだった。

1998年のデビューから、賞金ランクの最高順位は昨年の118位。ファイナルクォリファイングトーナメントから挑戦した今シーズンも、先週までの同ランクはボーダーラインにもほど遠い、81位だった。

12月7日の30歳の誕生日を迎える前に、「なんとか初シード入りを。今年逃すと、当分、無理かもしれないから」。切羽詰まった気持ちから、今大会の本戦切符をかけたマンデートーナメントに挑戦。トップ通過を果たして出場権をもぎとった。「これが、シード入りのラストチャンス」と、言いきかせて本戦にのぞんだ。

2打差の単独首位で迎えた最終日の朝、新聞の紙面に踊る文字を見ても「まさか、自分がそんなこと」と、思ったくらいだった。「井上信、史上19年ぶり3人目の快挙へ」。マンデートーナメントから優勝した例は、1979年フジサンケイクラシックの佐藤昌一と、1985年三菱ギャランのブライアン・ジョーンズしかいない、と書いてあった。もし勝てば、新たな歴史に自分の名前が刻まれる。が、「そんなの、自分には縁のない話」と、思い込んでいた。

それなのにいま、息詰まる激戦を制してこうして頂点に立っていることが、われながら不思議で仕方ない。「信じられなくて・・・」。呆然と繰り返した。

これからシーズン終盤、フル参戦できる。タイガー・ウッズの来日に沸く「ダンロップフェニックス」。「テレビで見るもの」と、思いこんでいた世界ランカーと、同じ舞台で戦える。その年のチャンピオンと、賞金ランク25位内の者にしか権利がない最終戦の「ゴルフ日本シリーズJTカップ」にも出場できる。「ええっ、本当に!?僕なんかが、出てもいいんでしょうか・・・。恥をかいてしまうかもしれない。やばい、まずい、どうしよう・・・」。思いがけない初優勝に、戸惑いを隠せない。

そんな井上の初々しい反応を見ながら、昨年、苦労の末に初優勝をもぎとった平塚哲二がしみじみと言ったのが印象的だった。「・・・それこそ、みんなが通ってきた道」

日を追うごとに井上も、チャンピオンとしての自覚と風格が生まれ、いやおうなしにそれに見合った活躍を期待されるようになるのだろう。そうやって、プロとしての成長をとげていく。

井上が、新しい道を作った。まさに「下から上りつめた」今回の優勝が、今後まだ出場権を持たない選手たちの、希望の星になることは間違いない。

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