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佐藤信人の視点 勝者と敗者

意外と緻密な男 “あの頃”に戻ってきたDJ

「あの頃に戻りつつある」――ダスティン・ジョンソンが優勝後の会見で語ったのは2年前の状態のことでした。

2017年「マスターズ」開幕前日に、宿舎で転倒してまさかの棄権。当時、世界ランキング1位に君臨していたDJにとって、痛恨の棄権を強いられてしまった頃のことです。

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ジョンソンは「マスターズ」を前に、米ツアーで3連勝してオーガスタに乗り込みました。グリーンジャケットの候補者に、誰もが名前を挙げていた時期。当時の彼自身も「ショットもパットも最高の状態」とコメントしていました。

ジョンソンと言えば、世界屈指の飛ばし屋です。個人的なトラブルやたび重なるルール違反の問題などで取り沙汰されることも多いですが、そのすべてを圧倒的な強さで払拭してきた選手と言えます。

そんな豪快なイメージの強いDJですが、今大会で見せたのは緻密な一面でした。舞台となったチャプルテペクGC(メキシコ)は、標高が高くボールの飛びが平地とまるで違うコース。しかも風が強いコンディションのなかで、クラブ選択などの細かいマネジメントが問われました。今平周吾選手に付いた柏木キャディが「異次元空間」と例えるほどですから、その対応力は計りしれないものがあります。

単に短いクラブを選べば良いと見るのは、安易すぎるように感じます。1打、2打の差で明暗を分けるプロの世界で、縦の距離感は結果に直結する重要項目。平地との違いは、予想以上に高い壁となります。いつもと異なる状況での瞬時の判断、イメージと違う番手で振り抜く違和感との戦い、高低差にプラスして風の計算… と、いくつもの対応力が求められるのです。

米ツアーではすでに見慣れた光景となっていますが、ドライビングレンジで弾道計測器を後方に置き、距離や球筋を見ながら戦略を立てる選手の姿があります。DJも同様に計測器を駆使して日々研究しています。彼の印象としては、そのような細かな作業をあまり好まないタイプかと思いきや、むしろそこを突き詰めるのが好きなタイプと自負しています。

今大会の優勝で、チャプルテペクGCでの戦績は3戦中2勝。過去3大会の計12ラウンドですべてアンダーパーという圧倒的な安定感は、単にコースとの相性だけではなく彼の緻密さが非凡ではないことを証明していると思うのです。

2年の時を経て、感じつつある「あの頃の状態」――最高潮の調子が戻ってきたとすれば、今シーズンの「マスターズ」を含む4大メジャーでの活躍に期待が膨らむのは私だけではないでしょう。圧倒的な飛距離と今大会で見せた緻密さ。あとはゴルフ以外のシーンで墓穴を掘らないことを祈るばかりです。(解説・佐藤信人

佐藤信人(さとう のぶひと)
1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。

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