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佐藤信人の視点 勝者と敗者

敗因は解説者泣かせの一打

テレビ中継の解説をしていると、言葉に詰まってしまうようなシーンがいくつか存在します。

それは選手一人ひとりが、哲学やポリシーを持っており、そのうえでしのぎを削って戦っている領域に、当事者以外の者が理解しようと努めてもナンセンスとなってしまう場面です。

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「ブリヂストンオープン」は、今平周吾選手と川村昌弘選手のデッドヒートで、最後まで結末が読めない激しい展開となりました。二人の勝敗を分けた場面は、最終日の16番(パー5)のティグラウンド。この時点で川村選手は、2位の今平選手に2打差をつけていました。16番は大きく曲がった左ドッグレッグで、ティショットの落としどころが非常に狭い難ホール。セオリー通りのマネジメントでいくのであれば、着実に255yd地点の曲がり角に置き、セカンドショット以降の勝負というシーンでした。

そこで川村選手が手にしたのは1W。前日も同じ状況で1Wを握り、左の林に入れてしまったにも関わらず、彼が選択したのは同じクラブでした。状況としては残り3ホールで2打差。リスクを恐れずチャレンジする場面ではなかったというのが、大半の見方だったと思います。

彼が放ったティショットは左カーブすれすれを狙い、一度はフェアウェイに落ちましたが、そのままコロコロと横切る形で転がり林に突っ込んでしまいます。一方の今平選手は5Wを選択し、セオリー通りフェアウェイをキープ。3オン1パットでバーディを獲ります。川村選手は3オンさせるものの2パットを要してパーとし、今平選手の追撃を許してしまったのです。

もともと川村選手は、左右どちらにも曲げるテクニックを武器とし、ある程度の飛距離も残せていました。それがいつからか球筋がややフェード気味となり、球を置きにいくようになってから飛距離が出にくくなってしまったそうです。昨年の後半あたりから元の姿に戻そうと試みるようになり、今季からどのような状況でも1Wで振りきるというテーマを掲げました。あの場面でほかのクラブを選ばなかったのも、心に決めたポリシーを最後まで貫きたかったという考えからくるものだと思われます。

その反面で、あの状況で1Wを持つリスクは間違いなく大きかったと言えます。国内外のどの解説者を探しても、あの選択はミスジャッジと唱える人ばかりでしょう。ただ、世界を渡り歩き、数多くの選手を見てきた川村選手の意図するものは、それほど単純ではなく、別にあるような気がしています。信念を曲げてひとつの優勝に固執するより、一度でも自分を見失うことのほうが罪。一大会の結果ではなく、先のゴルフ人生を見据えていたのではないかと思うのです。

プロの世界は結果がすべて。クローズアップされるのは順位ばかりですが、彼らが戦い続ける背景にはそれぞれの人生観や哲学があり、あえて説明して歩くことのできない毎ショットの意図が存在するのです。(解説・佐藤信人

佐藤信人(さとう のぶひと)
1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。

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