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佐藤信人の視点 勝者と敗者

こだわるが、固執せず 石川遼とドライバーの関係

国内メジャー第2戦「日本プロゴルフ選手権」は、石川遼選手の3季ぶり復活優勝にわきました。初日の中止で最終日に2ラウンド分を回り、ハン・ジュンゴン選手(韓国)をプレーオフ1ホール目で下しました。手に汗握る2人の勝負はわずかな差が明暗を分けました。

最終ラウンドの16番で石川選手はバーディを奪い、首位にいたハン選手に2打差に迫って優勝に望みをつなぎました。続く17番(パー3/206yd)は先にティショットを打ち、グリーン右サイドをキャッチ。ここで続くハン選手は6Iを選びます。手前の池を避けるため、少し長めのクラブ選択です。奥も嫌い、距離を合わせるように打ちましたが、ふけるように飛んだボールはグリーンから今大会用に改造した手前の傾斜を転がり落ちて池へ。あと1、2ydでもキャリーが出れば、止まったはずです。結果論ですが、7Iでしっかり打った方が安全だったでしょう。

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正規の最終18番(パー5)と同ホールでのプレーオフは、石川選手が真価を発揮しました。右にOBゾーン、左サイドも崖になり、第1打はプレッシャーがかかります。それでも72ホール目は1Wでフェアウェイ中央に置く文句なしの一打からバーディ。プレーオフは1Wショットが右のカート道で跳ね返り、フェアウェイ中央からイーグル。第1打はわずかに右に出ましたが、しっかり振り切れていました。

もちろん運も味方しました。ハン選手には終盤にミスがあり、石川選手にとっては1日で36ホール(プラス、プレーオフ)を回ったことも勢いを呼ぶ要因になりました。首位タイで出た第3ラウンドでは連続ダブルボギーをたたくなどして一時トップとは7打差をつけられながら、上がり3ホールを連続バーディ締めくくりました。仮に翌日に最終ラウンドが行われていれば、この流れは完全にストップしますが、すぐに最終ラウンドがあり流れがつながったように思います。

27歳の石川選手はプロ12年目。若くてしてスター街道を走った彼は、もう中堅やベテランといえるほどの経験を積んでいます。思えばプロ転向当初は1Wが最大の武器でした。しかしゴルフとは不思議で、キャリアが長くなり、経験を積めば積むほど、どこかに異変が生じるもの。そしてそれは、自分の得意クラブに出ることが多いのです。

石川選手に限った話ではなく、例えばタイガー・ウッズ選手も同様です。腰を痛め離脱しましたが、勝てなかった時期はとくに以前のような1Wを打てませんでした。怖いモノ知らずで、しっかり振れた昔のようにはいかず、ボールは左右に散りました。

ここ数年、石川選手も1Wに苦しみました。彼のストイックな性格から、ある時期は曲がっても1Wに固執しているように見えました。しかし今大会の初日、印象的な場面がありました。折り返しの1番でOBを出した後、暫定球を2Iで打ちました。OBになった打球も決して悪くはなく、ギリギリでOBゾーンに入りましたが、すぐにクラブを持ち替えました。頑なに1Wを握り続けた時期だったら再び1Wで打ったのではないかと思いました。

2009年に史上最年少の18歳で賞金王、5年シーズン米ツアーを主戦場にしながら、27歳で国内通算15勝目。石川選手の本来の実力は、疑う余地がありません。今後も彼にとって1Wは大事なピースであることに変わりません。正規の18番は、距離を考えれば、第1打で3Wを使う選択肢もありましたが、素晴らしい1Wショットを打てたのは、日々逃げずに向き合ってきたからです。練習場では、逃げずに努力を、そして試合ではこだわりはあるが、必要以上に固執せず――。石川選手と1Wは今、こんな距離感にあるように思うのです。(解説・佐藤信人

佐藤信人(さとう のぶひと)
1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。

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