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初優勝の木下裕太“ビビリ”の中に秘められた強さ

国内男子◇マイナビABC選手権 最終日(28日)◇ABCゴルフ倶楽部(兵庫県)◇7217yd(パー72)

73ホール目に迎えた4mのイーグルパットを決めた木下裕太は、天を見上げ、目を固くつむり涙ぐんだ。「夢を見ているようでした」。通算15アンダーの首位タイで終えた川村昌弘とのプレーオフを1ホール目で制し、プロ11年目の32歳がツアー初優勝を手にした。

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最初の1番を見たギャラリーは、木下の行く末を案じたことだろう。4mのバーディパットは20センチほどショート。“お先”したパーパットは「(グリーンが)少しへこんでいて」右に曲がり、カップ右からクルリと一周。淵に止まったかに見えたが、その3秒後にゆっくりと沈み落ちてカップインし、思わず苦笑いして右手で口を押さえた。

「すごいビビリ」を自称し、かねてメンタルの弱さを抱えてきた。それでも、「追い込まれて手が震えて、“やるしかない”と思って打つと昔から上手くいく」と火事場で真価を発揮するタイプ。終盤川村とのマッチプレーの展開になった最終日も、そんな木下のスタイルが凝縮されていた。

4番(パー5)から3連続バーディを奪い、2位に3打差をつけてハーフターン。しかし、サンデーバックナインに入り最終組のスコアは激しく動く。木下が14番をボギーとして通算13アンダーとし、川村昌弘リュー・ヒョヌ(韓国)と2打差へ。続く15番(パー5)では川村がイーグルを奪って1打差(木下は同ホールをバーディ)となったが、木下が16番(パー3)でホールインワン寸前のスーパーショットを見せて再び2打差へ。だが、1打差で迎えた最終18番では決めれば優勝の1.5mのバーディパットを外し、思わずしゃがみこんで頭を抱えた。

プレーオフ1ホール目。1Wで確実にフェアウェイに運ぶと、205ydの2打目を4番アイアンで打ち、ピン左奥4mに乗せる絶好のチャンス。川村がバーディとした後、またも巡ってきたウィニングパット。「(カップまで)1m手前からラインに乗って、スローモーションのような感じがした」。直後にボールはカップの底を叩き、脱力して再びグリーン上でしゃがみこんだ。

幼少のころから同じ千葉県出身で1つ年上の池田勇太と、同じゴルフスクールで腕を磨いてきた。池田がプロの世界でスター街道を突き進むなか、長く低迷のシーズンが続いた。QT(予選会)でも失敗続きだったが、「これでダメならゴルフをやめる」と覚悟した2016年のQTではじめてファイナル(最終予選)まで進み、ツアー出場への糸口をつかんだ。

「分かってはいるけれど、追い込まれたくない。しんどいです」。そんな性分は、初優勝を挙げても変わる気がしないし、変える気もない。「ビビリのまま変わらないほうがいい。来年以降、シードを獲ったのにダメになることを考えたら、それこそ地獄」。

応援に駆けつけた父・淳さんは、木下の性格について「石橋をたたいて渡るタイプ」と表現した。そんな幼少からの臆病さこそ、ついに開花した32歳の強さなのかもしれない。(兵庫県加東市/塚田達也)

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