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最前線の開発者、ロック石井氏が語る”ゴルフボールの未来像”

■人と道具のつながりを生む

プロの世界でフィッティングは日常だ。ボールフィッティングを始めるとき、石井氏はまず選手の“スピナビリティ”を見るという。これは“ボールにスピンを掛けられる能力”とでもいうべきもので、おもに40yd以内の短いショットでどれだけスピンを掛けられるか?どれだけスピン量をコントロールできる技を持っているか?ということを把握していく。

タイガー・ウッズがボールを評価する際に最も気にしていたポイントは、パターとウェッジだったという。1ラウンドで1Wを使う回数は最大14回。パターとウェッジをそれぞれ何回使うか考えると、当然の帰結だろう。レンチ一本でシャフト交換ができ、ヘッド自体のバランス調整も可能となった1Wは、いまでは一番フィッティングが容易なクラブとなっている。

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国内女子ツアーの開幕前、カールスバッドにフィッティングに来ていたテレサ・ルーの例を見てみよう。石井氏は昨年のスタッツから『(1)平均パット数=1.7770/5位』よりも、『(2)平均パット数(合計)=29.5426/23位』の数値が悪いことに着目した。(1)はパーオン時の1ホールのパット数、(2)は1ラウンド全体のパット数だ。ここから、グリーンを外したときのアプローチが寄っていないのではないか?という仮説を立てた。弾道測定器で見てみると、やはりスイングスピードの割にスピン量は多くない。では、もっとスピンの利くボールを使ってみては?と提案する。

キャロウェイゴルフは、市販品であるクロムソフトとクロムソフトXのほかに、ツアー会場には、よりスピンのかかる2つのツアー専用ボールを持ち込んでいる。ウェッジでそれぞれ約200回転(毎分)ほどの差が出るこれらのボールで、ほぼ全選手の対応ができるという。

データとは別に、石井氏がもう1つ大切にしているのが“エモーショナル・コネクション”というものだ。選手と道具の間の感情的なつながりや信頼関係。これをフィッティングという作業の中でつちかっていく。

たとえば、石井氏やロジャー・クリーブランド氏のようなその道のプロたちが、実際に選手が打つ姿を見て、数値やリアクションを受け止めた上で、これがいいよと言ってあげる。選手はそれで安心し、数字では計測できない微妙な差を作り出す。「『あの人が言うのだから間違いない』と思っていることが、パフォーマンスにも影響してくる。『軟らかいから良い』と思っていると、それが結果にも出る。そういうものだと思います」。

ウェッジのバックフェース加工もその一助となるだろう。持っているだけでワクワクする自分だけのオリジナルウェッジと、どこか気に入らないなと思いながら打つウェッジとのパフォーマンス差は、小さくはないはずだ。

石井氏は「フィッティングは自動車レースのチューニングに似ている」という。「パーツは同じだけど、レーサーの癖やコースコンディションに合わせて」それぞれの道具に微調整を施していく。しかし「クラブではどんどんやっているけど、ボールはまだ遅れているような気がしますね」と、モヤモヤした思いが“ボール屋”の胸の内にはくすぶっている。

■大切なマイボール

もっとやれるという思い。答えが分かっているのに、伝えられないもどかしさ。「一般アマチュアで“球が上がり過ぎて飛ばない”という人はいないといって過言ではない。球が上がりやすいようにフィッティングするだけで違うんです」と、本当は声を大にして叫びたい。もっとボールのことを考えて!!…と。

近年、道具が進化してミスの許容範囲が広くなった。パーシモンの時代には明らかなミスショットとなるスイングが、現代のクラブならそれなりのショットになる。パターですら、多くの人が芯を外して打っていることに気づいていない。プロも含めた多くのプレーヤーたちが、道具に対して鈍感になりつつある。だが、探求していけば、答えはやはりそこにある。

「まずは自分の癖や弱みを知ることが大事です。もう1つ必要なのは、その日の自分の状態を知ることです」というのが、石井氏からのアドバイスだ。そうすることで「きょうはサイドスピンが入りやすいから、スピンの入りにくいボールで行こう」とか、「球が上がりにくいから、こっちで行こう」という判断が可能になる。自身のフィードバック機能をきたえ、その日の状態を知って天候やコンディションに適応していくことで、パフォーマンスは格段に向上する。

技術的な面だけでなく、「カスタム化の中にはコスメティックもある」とカラーボールや、オリジナルロゴがプリントされたボールを使うことで、ワクワク感を演出する取り組みも進んでいる。

サッカーボール柄が表面に印刷されたトゥルービス(※クロムソフトの特殊印刷バージョン)は、全世界で売り上げ比率が上昇しており、特に日本市場ではその傾向が顕著だという。今年1月には、スーパーホットボールドというつや消しのカラーボールも発売した(日本では未発売)。「実際的な理由の1つは、キャディさんがいなくなって、自分のボールをカートパス上から認識したいという要求があること。それにファッション。ゴルファーが白いボールに退屈しているのではないかと思うんですね」。

石井氏は、年末までに1つやりたいことを抱えていると明かしてくれた。それは、ごく少数を対象にしたトライアル的な取り組みで、うまくいったら次のステップへと昇華させる。「技術的な課題は、印刷法やマーキングの仕方。コーティングがすごく大事な役目をしていて、コーティングの下に乗せたら(印刷は)落ちないけど、上に載せるとしたら耐久性が重要になってくる。できあがったボールにポンとカスタムしたいけど、その辺が間口を狭めている理由ですね」という。

今回のインタビューを通じて石井氏は「もっとゴルフを楽しんでもらいたい。ボールを楽しんでもらいたい」と繰り返した。ボール業界では一目置かれる技術屋であり開発者だが、近くで話を聞くと、とてもアナログで感情的な部分を大切にしている人だなと感じた。昔、翌日のゴルフを想像しながら丁寧にガッタパーチャボールに傷をつけていた職人も、きっと同じような人種だったに違いない。

【プロフィール】ロック石井(石井秀幸)
1964年生まれ、東京都出身。国立東京高等専門学校、国立長岡技術科学大学・大学院を経て89年にブリヂストン入社。ソリッドボール開発に従事する。同社在職中の96年からナイキのゴルフボール開発を手掛け、2002年にナイキへ正式移籍。ゴルフボール開発総責任者として、同社の全ボール開発に携わる。ナイキのゴルフ事業撤退を受け、16年11月からキャロウェイゴルフでボール研究開発のシニアディレクターとして勤務している。

今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール

1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka

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