キレそうでキレない岩田寛「ぼくは幸せ者です」
2015年 シュライナーズホスピタルforチルドレンオープン
期間:10/22〜10/25 場所:TPCサマリン(ネバダ州)
開幕2戦は下部出身選手が連勝 岩田寛の目指す先は
長い、長い、待ち時間。歓喜の時はホールアウトしてからおよそ2時間半後に訪れた。「シュライナーズホスピタルforチルドレンオープン」最終日を28位タイで迎えたスマイリー・カウフマン。ルーキーの記念すべき初勝利は、7打差をひっくり返す大逆転で生まれた。
カウフマンはこの日、最終組から15組も前でプレーを開始し、8番(パー3)から4連続バーディを奪うなど中盤に猛烈に勢いづいた。1オン可能なパー4である15番で、ティショットをピンの左5mにつけてイーグル。「16アンダーまでいけばプレーオフに残れる、とキャディと話していたんだ」。15アンダーで迎えた最終18番で6mのバーディパットを決めて渾身のガッツポーズを見せ、トータル「61」(パー71)を叩き出した。
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「本当に、本当に長かった」。プレーを終え、単独首位のクラブハウスリーダーとなった時には、最終組はまだハーフターンすらしていなかった。キャディや友人の選手たちとの談笑と、プレーオフに備えての練習を繰り返したが気が気でない。砂漠地帯は日中と朝晩の寒暖差が激しく、ラウンドしていた最中よりもずいぶん気温も下がっていたが、一時的に並ばれたケビン・ナも終盤に後退。待合室代わりになった、練習場の脇にあるキャディ用のテントの中で最高の瞬間を味わった。
この日の待機時間とは裏腹に、キャリアにおける初優勝までの道のりは電光石火だ。1991年11月生まれの23歳。なんだか愛らしい登録名のスマイリーはミドルネームで、本名はカーター・スマイリー・カウフマン(ちなみに弟のミドルネームは「ラッキー」だとか)という。ルイジアナ州立大を経て2014年にプロ転向し、同年末の下部ウェブドットコムツアーの予選会を通過。15年シーズンに同ツアーで1勝、賞金ランキング6位に入り、今季のレギュラーツアー出場権を手にした。
前週の開幕戦「フライズドットコムオープン」を制したエミリアーノ・グリージョ(アルゼンチン)も9月に23歳になったばかりの新人選手。昨季に推薦などでレギュラーツアー5試合に出場。「プエルトリコオープン」2位を含む2度のトップ10入りを果たし、入れ替え戦ウェブドットコムツアーファイナルズにコマを進めた。その最終戦「ウェブ ドットコムツアー選手権」で優勝した。
昨季(2014-15年)のレギュラーツアー優勝者のうち、シーズンイン直前の入れ替え戦を経験した選手は5人。今季はいまのところ2戦で、2人目だ。カウフマンにせよ、グリージョにせよ、つい先日まで今季の出場権すら保証されていなかった選手たちといえる。
そして、彼ら2人と同じように入れ替え戦を通過してきた選手のひとりが、岩田寛である。
開幕から2戦は予選落ちと、MDF(最終ラウンドの出場人数制限)に終わった。成績だけでない“洗礼”も味わった。出場資格の優先順位が低い入れ替え戦出身選手は、遅い時間のティオフを設定される。午後にスタートした日は、2試合連続で一時的な中断がないにもかかわらず、日没順延を余儀なくされた。
今週は同伴競技者のスロープレーにも驚いた。「ひとりの選手はウェブドットコムで一緒に回ったことがあって、覚悟はしていたけれど、もうひとりもゆっくりだとは思わなかった…。それでも前の組との間隔は開かないから、みんなゆっくりなんだなと思った。自分がイライラした時にすごく遅くされると、その人のせいにしたくなっちゃう…」
日本で育ち、プロのキャリアを積んだ。米国で戦う上で「慣れ」の問題は、小さいようできっと大きい。それでもこの場にいる限り、チャンスはきっとあるはずなんだ。(ネバダ州ラスベガス/桂川洋一)
桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw