届かなかった赤いシャツ せめてモリカワは「タイガーみたいに」逃げ切った
2021年 WGCワークデイ選手権
期間:02/25〜02/28 場所:ザ・コンセッションGC(フロリダ州)
データ“そこそこ”でも「人生イチ」モリカワ快挙を導いたパットスタイル変更
コリン・モリカワが「WGCワークデイ選手権」で通算4勝目を挙げました。2月に24歳になったばかり。25歳までにメジャーとWGCの両タイトルをそろえるのはタイガー・ウッズ以来2人目という快挙でした。
アマチュア世界ランキング1位に君臨するなど輝かしいキャリアを歩んできた選手。今季ドライビングディスタンス128位(294.1yd)が示すように飛ばし屋ではありませんが、ショットの総合力とアプローチ技術が光ります。
<< 下に続く >>
唯一ウィークポイントとして挙げられることもあったパッティング。そのグリーン上で劇的な変化がありました。最近は右手の親指と他の指でグリップを挟むような握り方「saw grip(ソー・グリップ)」にトライ。
見た目はジャスティン・ローズやトミー・フリートウッド(ともにイングランド)、セルヒオ・ガルシア(スペイン)、日本でも宮里優作選手といったパットで苦しむことがあったショットメーカーたちが取り入れてきたクローグリップによく似ていますね。右手が筆を持つような形になるクローグリップは、繊細なタッチを出しやすいとも言われます。
スコアへの貢献度を示す「ストロークゲインド」から今大会のプレーぶりを紐解いてみます。ショット力を反映した「ティトゥグリーン」が「+12.526」で堂々の1位。しっかりと強みを発揮しつつ、「パッティング」は「+3.952」でフィールド10位でした。
シーズントータルの「ストロークゲインド・パッティング」が「-0.433」で191位ですから、上々のパフォーマンスには違いありません。一方で「全米プロ」を勝ったときが「+8.076」でフィールド1位だったことを考えると、ずば抜けた数字でもない。「人生で一番いいパッティングができた一週間」と語った本人の中にはデータ以上の手応えがあったのだと思います。
ただパットが入ってくれれば「調子がいい」「気持ちいい」とはならないのが選手心理の面白いところ。スコアがそれほど伸びていなくても、「パッティングの調子はいい」と話す選手のコメントを見聞きしたことがある方も多いのではないでしょうか。長いバーディパットを沈めるよりも、シビアな距離を決めきる方が自信につながることも多いのです。
新しいパッティングスタイルも手伝い、着実にグリーン上で芽生えていた自信。その自信がアイアンショットやアプローチで無理をしなくてもいいという余裕を生み、結果につながっていく好循環。データだけでは推し量れないゴルフの奥深さです。
特にひとつのジャッジミスがダブルボギー、トリプルボギーにつながってしまうような罠が張り巡らされていたザ・コンセッションGC。
2位に入ったビクトル・ホブラン(ノルウェー)も2日目の最終9番パー4で「8」をたたいてしまいました。バンカーに入れたティショット、土手にワンクッションさせるアプローチといった局面のクラブ選択、もっと言えばプレー選択。冷静さを失えば、致命傷になりかねない怖さが随所にありました。
モリカワは本来持っているクレバーな部分に加え、パッティングに裏打ちされた心のゆとりが大きかったと感じます。さらにキャディのJJ(ヤコバック)さんも、ライアン・ムーアの相棒を長く務めた経験豊富なベテラン。まだ若い選手をうまくリードしている雰囲気が伝わってきました。
ウッズをほうふつとさせるスキのないコースマネジメント。記録で肩を並べるにふさわしい、見事な勝利でした。(解説・進藤大典)
- 進藤大典(しんどう・だいすけ)
- 1980年、京都府生まれ。高知・明徳義塾を卒業後、東北福祉大ゴルフ部時代に同級生の宮里優作のキャディを務めたことから、ツアーの世界に飛び込む。谷原秀人、片山晋呉ら男子プロと長くコンビを組んだ。2012年秋から18年まで松山英樹と専属契約を結び、PGAツアー5勝をアシストした。