「僕にとってのマスターズ」マックス・ホマ感涙の原風景
2021年 ジェネシス招待
期間:02/18〜02/21 場所:リビエラCC(カリフォルニア州)
ウッズゆえの豪華フィールド プレーオフゆえのホマV
「ジェネシス招待」はPGAツアーの選手たちにとって特別な試合です。年間のコースコンディション維持に数億円をかける名門リビエラCCが舞台ということに加え、タイガー・ウッズの財団がホストしていることに大きな意味があります。
ウッズからトロフィーをもらう――。プロゴルファーなら誰もが夢見る瞬間は、数年前までツアー外競技「ヒーローワールドチャレンジ」でしかかなわない栄誉でした。
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かつては孤高の絶対王者というイメージだったウッズ。コース内ではあいさつのために声をかけるのもためらわれるレベルで張り詰めたオーラをまとっていたことを覚えています。近年は、すれ違えば向こうからちょっかいをかけて来てくれたほどフレンドリーになって驚きました。
勝つこと以外は眼中にないと言わんばかりの時代は独特のカリスマ性を放っていました。一方でツアーやゴルフ界への貢献を惜しまず、家族へ愛情を注ぐ、どこか“人間くさい”姿にも違った魅力があります。誰からも愛されたアーノルド・パーマーさんに近いかもしれません。
今大会の優勝者に付与された世界ランキングのポイントは前週の倍以上。トップ選手が集結した証しです。翌週はフロリダまで移動して予選カットのない(これは選手にとって非常に重要な要素です)WGC、さらに「アーノルド・パーマー招待」、「ザ・プレーヤーズ選手権」というビッグトーナメントが続き、タイミングだけならスキップしてもおかしくない。輝かしい実績にとどまらないウッズへのリスペクトが、これだけの豪華フィールドを実現させているのだと思います。
マックス・ホマも優勝インタビューで必死に涙をこらえていましたね。幼い頃から見てきた地元での試合に勝ち、憧れのレジェンドから祝福され、認められる喜びが伝わってきてグッときました。
プレーオフ(PO)1ホール目、木の根付近からウェッジをこれでもかと被せて打った曲芸ランニングアプローチに目を奪われますが、これがPOだったこともホマの勝因だったと感じます。
最後まで争ったトニー・フィナウは2016―17年シーズンから数えて、これが21回目のトップ5フィニッシュ。この期間中に未勝利の選手としては、2番目がトミー・フリートウッド(イングランド)の11回ですから、圧倒的に多い数字です。
緊張が極限に達するPOでは、ちょっとした要素が精神面に大きく作用します。目の前のフィナウが勝てそうで勝てていないことを知っている分、ホマには「自分が耐えてさえいれば勝てる」という心理面の“お守り”があったのではないでしょうか。大ピンチに陥っても、どこか落ち着いている雰囲気がありました。
選手は自分以外のプレーヤーが感情的になっているのを見ると、冷静になれたりするもの。1対1のマッチプレーのような状況であれば、なおさらです。
逆のことがフィナウに言えます。POの1ホール目にティショットを絶好の位置に運びながら、「ここを獲らなければ負けてしまうかも」と弱気がのぞいてしまった可能性はあります。ホマに比べれば、はるかにイージーだった寄せをバーディにつなげることができませんでした。
フィナウは、これで欧州ツアーを挟んで3試合連続の2位となりました。2勝目が遠い彼もツアー仲間から慕われるナイスガイ。“シルバーコレクター”の称号を返上し、このコーナーでフィナウの愛されキャラをお伝えできる日が来ることを願っています。(解説・進藤大典)
- 進藤大典(しんどう・だいすけ)
- 1980年、京都府生まれ。高知・明徳義塾を卒業後、東北福祉大ゴルフ部時代に同級生の宮里優作のキャディを務めたことから、ツアーの世界に飛び込む。谷原秀人、片山晋呉ら男子プロと長くコンビを組んだ。2012年秋から18年まで松山英樹と専属契約を結び、PGAツアー5勝をアシストした。