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2016年 チューリッヒクラシック
期間:04/28〜05/01 場所:TPCルイジアナ(ルイジアナ州)

<選手名鑑197>ブライソン・デシャンボー(下)

■ ホーガン&スニード流 ゴルフボール選別法

ブライソン・デシャンボーはゴルフボールにも完璧を求めている。全て同じ形に見え、打ってもバランスの差を感じるほど違わないように思えるが、彼は違うのだという。1930年頃、ベン・ホーガンとバイロン・ネルソンは塩水にボールを浮かべ、バランスの違うボールを選別していたという。僕もそれを聞いたことがあるが、それはまだボールの製造技術が、現在ほど進んでいない時代の話だと思っていた。デシャンボーはそれを応用し、塩水の代わりに入浴剤に使用される硫酸マグネシウムを入れた水にボールを浮かべ、バランスチェックを行うようになった。時間はかかるそうだが、根気よく観察していると、1ダース中で3つか4つは、バランスの異なるものがあるという。現在は製造技術も進歩を遂げ、ボールの素材も変わり、メーカー側がかなり厳しいチェックをしてから製品化するので、そこまでの選別が必要かと思えるが、微妙な違いも見極めたいと実践しているそうだ。

■ 趣味は「綱渡り」

最近は「ゴルフ科学者」から「ゴルフ界のアイザック・ニュートン」とまで言われはじめたデシャンボー。ゴルフ以外の時間は何をしているのか?その答えは「綱渡り」だった。これまでいろいろな答えを聞いてきたが、それは僕も初めて聞く答えだった。おそらく綱渡りをする選手は、彼以外にいないだろう。だがそれは、バランス感覚を養い、身体のコアを鍛えるには最新で効果的なトレーニングかもしれない。ノルディックスキージャンプで、五輪金メダル4個保持者のシモン・アマン(スイス=34)のトレーニング方法のひとつに、直径1.5mほどのボールに長時間乗り続けるというメニューがある。落ちそうになりながらもなんとかバランスを保ち乗り続ける。まるで“シルク・ドゥ・ソレイユ”の団員の練習のようだった。そのトレーニングは、体感を鍛えるには最高の効果を発揮するのだそうだ。身長172センチ、体重58キロと小柄で、不利な点をバランス感覚や体感を鍛えることで補っているという。デシャンボーの綱渡りにもアマンと同じような超個性や独創性、そして成果を感じる。

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バランス感覚といえば、彼は右利きだが、左手で自分の名前の裏向きも書けるのだ。左手を使うこと、文字を逆にイメージし描けることは脳のトレーニングになるのかもしれない。私生活もすべてはゴルフを極めるため。練習のハードワーカー、アイデアマンと言えばビジェイ・シントム・カイトが浮かぶが、デシャンボーの繰り出す数々のアイデアは彼らを超えるかもしれない。

■ 2016年 勝負の年

デシャンボーは93年9月にカリフォルニア州北部モデストで次男として生まれ、現在はロデオ大会で知られる同州クローヴィスに住んでいる。兄と一緒にサッカーや野球を楽しんでいたが、父の影響でゴルフを始めた。

父・ジョンはカリフォルニア州のトップアマチュアで、PGAツアーでも数試合プレーした経験がある。アリゾナ大学卒業後、同州の著名コース、ツーソン・ナショナルGCなどでアシスタントプロとして勤務後、ゴルフショップ店長も経験した。その後、プロゴルファーに転身したが、現在はゴルフのソーシャルメディアビジネスに携わっている。膵臓と腎臓疾患で、昨年は臓器移植でドナーを待っている状態が続いていた。その最中、息子ブライソンは15年「全米アマ」とNCAA個人優勝という偉業を達成し、父を歓喜させた。

デシャンボーのゴルフは異端とも言われたが、誰に何を言われてもまったく動じず、我が道を邁進している。それは父譲りの不屈、時に頑固なほどの強い気持ちがあったから。父は全快に向け、息子はプロの世界で羽ばたくため、2016年は勝負の年となる。

佐渡充高(さどみつたか)
ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。

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