なぜ、2023年は「パターの年」だったのか(前編)
GolfWRXが選ぶ PGAツアー23年シーズンギア10大ストーリー(前編)
ビクトル・ホブラン(ノルウェー)が年間王者に輝いた今季米ツアーは、ギアの観点から見ても興味深いストーリーが盛りだくさんのシーズンだった。
GolfWRX.comは毎週PGATOUR.comのイクイップメントレポートの場で最新のギア情報をお届けしてきた。「フォーティネット選手権」(9月14日~)から始まるフォールシリーズ開幕を前に、今回はギアに関するこの一年を「GolfWRX.com的ギア10大ストーリー」として2回に分けて振り返る。
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1. ルーカス・グローバーが新パターで復活
これはギアの話にとどまらず、一人のアスリートが10年間に及ぶ精神的な苦悩を克服し、自身の偉大さを取り戻したストーリーである。
2009年「全米オープン」王者のルーカス・グローバーは、長らくツアー屈指のボールストライカーであり続けてきた。ドライバー、ロングアイアン、ショートアイアンのショットはもとより、ウェッジも含めてキャリアを通じてPGAツアーにおいてトップクラスの選手であり続けた。
しかし、パットに関する問題も消えなかった。2013年頃にはじまったパッティングのイップスとは様々な方法で向き合ってきた。そんなグローバーにとっての最新の選択肢は、長尺パターへの変更だった。今年に入って投入を決めると効果はすぐに表れ、複数回上位フィニッシュを遂げた末にレギュラーシーズン最終戦「ウィンダム選手権」、プレーオフシリーズ初戦「フェデックスセントジュード選手権」と2週連続優勝を果たした。
グローバーは、「何かを変えなければならないと決心した。元から(長尺パターを)試すつもりだったが、それがしっくりこなければ左利き用のパターを試そうと思っていた。そこまで追い詰められていた。何一つ機能しなかったし、何一つ練習で上手くいかなかった。脳が麻痺していた。10年これと付き合って何も理解できず、10インチのパットでさえ全ての感覚を失うこともあった」と苦悩を明かした。
グローバーは「ザ・メモリアルトーナメント」でL.A.B.GOLF MEZZ.1(メッツ1)マックスパターをテストし始めた。それは2022年にアダム・スコット(オーストラリア)が使って話題になったパターだった。グローバーはスコットと同じ長さと仕様のパターを注文した。
「これをメモリアルへ持って行ったら、パットの調子が良かったんだ。(長尺での)ミスは、調子外れでも不格好でも、イップスっぽいストロークでもなかった。単なるミスで、良しとできるものだった。(ストロークの技術が)あまりに異なるため、根本的に全く新しいスキルを必要とした。かなりかけ離れていたんだ」とグローバーは述べた。
2. マイケル・ブロック“10年物”7番アイアンに5万ドルの値
マイケル・ブロックが「全米プロゴルフ選手権」で見せた快進撃で、ブロックが使用する10年物のテーラーメイド製アイアンが注目された。最終日の15番(パー3)でホールインワンを達成したブロックは15位タイで終え、バルハラGC (ケンタッキー州)で開催される来年大会の出場権を獲得。当時46歳のブロックは、ロリー・マキロイ(北アイルランド)と同組で戦って権利を勝ち取った。
2014年から使用するテーラーメイド ツアープリファード MCの7番アイアンでホールインワンを決め、このクラブに対して5万ドルで譲ってほしいというオファーを受け取ったほか、多くの博物館やギャラリーが興味を示した。
しかしオファーを受けず、翌週の「チャールズシュワブチャレンジ」でもこのクラブを使用。10年間にわたり愛用するクラブを、最新のテクノロジーよりも手への馴染みの良さが気に入っていると話している。
3. 「ジェイルバード」が合言葉に
分厚い鉛テープが貼られ、長尺のスーパーストロークグリップでカウンターバランスに仕上げられたオデッセイ VERSA JAILBIRD(ジェイルバード) パター は、間違いなく2023年における最もホットなゴルフクラブのひとつだ。人気は現在も継続中である。
注目されたきっかけのひとつは、1月の「ザ・アメリカンエキスプレス」で、リッキー・ファウラーがキャディのリッキー・ロマノが持っていたこのパターを試し、実戦投入したことだろう。気に入ったファウラーは、自分用に1本入手することを決めたのである。
その後、オクラホマ州立大時代の後輩にあたるウィンダム・クラークも、ファウラーのパターに興味を持って自分用にリクエストした。クラークが制した「全米オープン」では、2人が同じパターを持って最終日最終組でプレーしたことがクローズアップ。また、キーガン・ブラッドリーも同じパターを使用し、今季「トラベラーズ選手権」でツアー6勝目を挙げている。
マーケティングの天才であっても、このパターを売り出すにあたってこれほどの筋書きは描けなかっただろう。何しろPGAツアーの選手たちは、今でもこのパターの利点についてテストを重ねており、成功に結びつけているのである。
4. キャビティに押されるブレードアイアン
ショットの精度、弾道やスピンコントロールに長けたブレードアイアンが、超一流のボールストライカーに愛されるのは間違いない。しかし、昨今はキャビティバックが増えている。
今季は多くの選手がブレードからキャビティバックに乗り換えた。中でも目を引いたのはファウラー、ウェブ・シンプソン、クリス・カーク、そしてスコットだ。
また、ブレードとキャビティバックの両アイアンで構成される複合セットも年々人気を増している。トッププレーヤーではマキロイ、マックス・ホマ、コリン・モリカワらが使用している。
5. スコッティ・シェフラーの13本
プロとしてのキャリアの大半を通じてブレード型のパターを使用してきたスコッティ・シェフラーが、マレット型パターをテストしている姿が目撃された。しかし、特筆すべきはパターよりも驚異的なボールストライキングの数値だろう。
シェフラーはPGAツアーにおいて、平均スコア、ストローク・ゲインドのトータル、アプローチ・ザ・グリーン、オフ・ザ・ティ、ティ・トゥ・グリーン、グリーンズ・イン・レギュレーション(パーオン)でトップに君臨した。
シェフラーは藤倉コンポジット VENTUS BLACK 7Xシャフトが装着されたロフト角8度のテーラーメイド ステルス2 プラス ドライバーを使用している。また、15度にセットされたテーラーメイド ステルス2 フェアウェイウッドに加え、鉛テープで重量を加えた2本のスリクソン Z-U85 ドライビングアイアン(3番、4番)を活用している。
5番アイアンからピッチングウェッジにかけては、タイガー・ウッズとテーラーメイドが共同設計したP-7TW ブレードアイアンのセットを使用しており、これに加え3本のタイトリスト ボーケイウェッジ(60度はローバウンスのTグラインド)をバッグに入れている。
シェフラーはこれらクラブでは滅多にミスをしない。
(協力/ GolfWRX, PGATOUR.com)