松山英樹は23年「マスターズ」でいくら稼いだ?
2023年 マスターズ
期間:04/06〜04/09 場所:オーガスタナショナルGC(ジョージア州)
ラームの「マスターズ」優勝アイアンが比類なきものに仕上がるまで
「マスターズ」王者のジョン・ラームは、超一流のボールストライカーであり、ワールドクラスのゴルファーの中でもその技量は突出している。グリーンジャケットを勝ち取ったパフォーマンスの中で、ラームは終始、精度の高いアイアンプレーでオーガスタナショナルを我が物とし、日曜の午後にほとんど確定しつつあった筋書き以外のドラマの可能性を排除した。
とは言え、ラームにとって、そのアイアンのパフォーマンスは、何も新しいものではなかった。
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ラームは現在、PGAツアーのストロークゲインド(以下SG)・トータルでナンバーワンに君臨している。その包括的なスタッツにあってアプローチプレー(グリーンを狙うショット全般)は特に卓越しており、SG・アプローチ・ザ・グリーンで4位、200~225ydで1位、200ys未満で2位、100yd未満で1位にランクインしている。
通常、ラームはターゲットのわずか左へ打ち出されたボールが徐々にターゲットラインに向かい、右側へ降りてくる軽めのカットショットを頼りとしている。ラームの弓なりになった左手首に加え、ダウンスイングでのアタック角もまた、ソリッドなボールへのファーストコンタクトを確実なものとしている。信頼の置けるカットショットと、一貫性のあるピュアなコンタクトの組み合わせが、大たたきをなくし、より多くのバーディチャンスをもたらす原動力となっている。
ボールをピンの近くに打てる完全に制御されたアプローチショットは、オーガスタナショナルのグリーン周りのペナルティに匹敵する難度と、グリーンの傾斜の複雑さを考慮すると、特に大きな助けとなるのである。先週のラームは、ボールを正しい場所へ打ち続けた。
それは毎ホールのことであり、初のグリーンジャケットがかかった状況で大勢の後続を従えた日曜の終盤でさえも正確なカットショットを繰り出し、危険のない場所へアプローチショットを打つことで、説得力のある勝利を手にした。
スイングのスタイル以外では、アイアンセットをあれこれいじらない姿勢が、ラームの一貫性でもう一つの重要なファクターとなっている。ラームは「マスターズ」前に、自身の使用するキャロウェイ パラダイム トリプルダイヤモンド ドライバーの調整に時間を費やしたものの、アイアンセットはキャロウェイ契約選手となった2021年から変更していない。
ラームの「マスターズ」優勝アイアンであるキャロウェイ APEX TCB(ツアーキャビティバック)は、標準的な同じモデルと比較すると0.5度ウィーク(ロフトが寝ている)に調整されていることを、キャロウェイのPGAツアーレップであり、ラームの用具に関する要求に応えているケレン・ワトソンは教えてくれた。
また、ラームは“ソフトステップされた”プロジェクトX 6.5シャフトをアイアンに使用している。ソフトステッピングとは、シャフトを標準よりも若干やわらかくする際に使用するトリック。5番アイアンのシャフトを6番アイアンに、6番アイアンのシャフトを7番アイアンに、という具合の処置を全番手で行うことで、わずかながら打ち出し角とスピン量の増加を実現している。よりウィークなロフトとよりやわらかいシャフトのコンビネーションは、ラームの望むスピン量、打ち出し角、キャリーの数字を実現しつつ、ダウンブローのスイングとインパクトでのクラブのデロフトを両立させている。
「彼が(キャロウェイへ)やって来たとき、我々はすぐに、アイアンにはソフトステップされた6.5が必要であることが分かりました」と、ワトソンは「RBCヘリテージ」の週の火曜日に述べた。
「通常、我々は契約選手たちに対し、パフォーマンスの混ぜ合わせを行います。バッグの中の全番手を使用し、60球ほど打つのですが、同じショットを連続して打つことはありません。従って、4番アイアンの次は9番アイアン、9番アイアンの次は5番アイアン、5番アイアンの次は6番アイアン、6番アイアンの次はウェッジ…というような流れになります。我々はそこで、把握するために必要な全ての情報が得られます。このプロセスでは、まず集合してこの作業を行い、データを蓄積し、昼食をとり、その後はアイアンのロフトとライ角を曲げて調整し、最終的に現在のロフトとライ角に辿り着きました。このセットは標準よりも0.5度ウィークに見えるかもしれませんが、PGAツアーでは標準というものはないのです」
「彼のスピン量は(6番アイアンで)だいたい6,000~6,300 rpmになり、それは打ち出し角度に関わらず変化することはありません。弾道の低いショットではスピン量が多くなり、高いショットでは少し低くなります。このパラメーターを満たすことが、スタート時点で我々の求めたことでした。彼はその直後に組み上がったアイアンを持って行くと、コースを『59』で回りました」
そう、それは正確な情報なのである。ラームは初めてAPEX TCBアイアンを使用したアリゾナ州スコッツデールでの練習ラウンドで「59」をたたき出したのである。その時のアイアンは「マスターズ」で勝利した物と同じモデル、同じ仕様、そして同じシャフトだった。
「彼が(キャロウェイに)来たときからアイアンは何一つ変えていません。ロフトもライ角も、何一つです。でも、それが彼なのです」
ラームは、用具のこととなると、あまり変化を好むほうではない。2021年以降に行なった唯一の変更は、キャロウェイ ジョーズ ウェッジ(メッキなし)60度のライ角を1度調整したことのみ。ワトソンによると、ラームはインパクト時にソールのバウンスをもう少ししっかり感じたいと希望したとのこと。以上である。
今季PGAツアーの指定大会第7戦である「RBCヘリテージ」の火曜日に、ワトソンはGolfWRX.comに対し、ラームの「マスターズ」優勝アイアンと完全に同一で真新しいセットを携えていると述べた。これには、2つの理由がある。そろそろ新しい溝の頃合いであることが。もう一つは、「マスターズ」優勝セットがラーム自身のゴルフシミュレーター部屋に設けたささやかなクラブミュージアムに収めるのに最高の逸品、という点である。
「我々が新たなセットを組み上げたのは、そろそろその頃合いだからです。彼はとても昔ながらの気質を持った人であり、何であれ変えることを好みません」とワトソン。「もしも今週、新しいセットを彼に見せることができれば、言うことないですね。そうすれば、あの(優勝)セットを自宅に置いておくことができますから。彼は自宅の地下にシミュレーターがあり、そこにミュージアムのような場所を持っているのです。あのクラブたちも言葉が話せれば良いのですがね」
仮にラームの「マスターズ」優勝アイアンセットが話せるのであれば、グリーンにやわらかく安全に着弾するあのカットショット以外のショットを打ってくれとリクエストすることだろう。しかし、うんざりするようなアプローチプレーこそ、ラームが競技を席巻し、初のグリーンジャケットを勝ち取った手段だったのである。彼のAPEX TCBアイアンはしっかりと役割を果たしたのであり、そろそろラームのミュージアムコレクションの仲間入りをする頃合いなのである。
(協力/ GolfWRX, PGATOUR.com)