日米首脳ゴルフの舞台裏 松山英樹2017年末インタビュー(3)
松山英樹2017年末インタビュー「流れが来なくても勝てる選手に」 松山英樹2017年末インタビュー(4)
松山英樹の世界ランキングは2017年、一時2位まで浮上した。2016-17年のPGAツアーの年間ポイントレース(フェデックスカップ)は、レギュラーシーズンを終えた段階で1位だった。いまや押しも押されもせぬタレントのひとりとして、その存在感は際立っている。
上達しているとはいえ、英会話の未熟な松山をどう描くか、というのは海外のメディアにとっては至難の業である。その中でも「ヒデキ・マツヤマはこういう選手である」という特徴についての表現は、いくつかのポイントで定着したと言っていい。
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ショットを打った直後、クラブから片手を離すシーン。大きなミスをしたように見えて、ボールがフェアウェイにあったり、グリーンに乗っていたりするケースが多くある。だから、テレビ中継では驚きを込め、笑いの対象にもなっている。
松山はそんな仕草を「基本的にはミスショットなんですよ」と解説する。「(スイングの)ミスをしても、たまたまフェース面が真っすぐになっているから、真っすぐ飛んでいるだけ。それか、クラブが良いんでしょう。仕方ないんですよね、クラブを離したくなくても、離れちゃう。そういうときは、それだけバラバラになっている。ワザと手を放して調節をしているつもりはない。とっさなんでしょうね。手を離さなかったらボールが曲がるんだと思う。手が離れて“芯を食っている”こともあります。でも、そういう時は曲がります。芯に当たっていないと、フェアウェイに行くことが多いかな」
真っすぐ飛んだのにガッカリしている、バーディチャンスについたにも関わらず“この世の終わり”のような表情を浮かべている。ただ、そんな姿は飽くなき向上心から来る。「イメージしているボールの逆球でピンに寄っても嬉しくない。真っすぐ行って良かった…とも思うけれど、『良かったけれど、今のはダメだよな』と思うことが多いんです」と言うのだ。
スイングについてもうひとつ。外国人の視線をくぎ付けにしているのが、クラブを振り上げてから、下ろすまでに生じる“間”である。「松山のスイングはトップで止まる(ポーズする)」と話題を呼び、「ヒデキのクラブが止まっている間にコーヒーが飲める」というジョークもツアーのSNS投稿で広まった。
「真似はできないだろうね、と思います」と松山。注目すべきは「止める意識は僕にはない」という説明だ。
「僕は止めようとは思っていない。大学に入った頃、スイングを変えてからこうなったと思います。もともと(テンポは)ゆっくり振っていましたけど。自分としては常に動いている意識なんです」。クラブがポーズしているように見える時間の長さと、打球の行き先やショットの感触との関係性は特に見当たらないという。ボールを今放たんとする、息をのむ一瞬の間は、なんともミステリアスな時間である。
Pause and admire the beauty.pic.twitter.com/ma736VXSDf
— PGA TOUR (@PGATOUR) 2017年12月21日
2018年の松山は1月4日開幕の「セントリートーナメント・オブ・チャンピオンズ」で始動。プロ6年目もハワイで迎える。待望のメジャータイトルはいま、その目にどれほど見えているだろうか。
「うーん…わかんない。でも、目標はメジャーで勝つことなんで、それに合わせて練習もする。足りないものが何なのかは一試合ごとに分かってくる。課題はいっぱいありますよ、ショットも、パットも、アプローチも。やろうとしていることが、どこまでできるか…」
2017-18年シーズンが10月に開幕した後、松山はスイングに新しい動きを取り入れている。感覚的な要素を彼は言葉にはしない。ただ、試行錯誤の連続から来る苦悩が読み取れる。
「スイングを良くしようと思う中で、自分は“引き出し”は多いかもしれない。でも、いろんなことをやりすぎて迷っていることが多いですね。『こっちの方が良くなるんじゃないか…』『そっちのやり方の方がフィーリングが出しやすいんじゃないか…』と変えようとして、考え始めることが、悪くなっていく原因でもあるなとも思う」
現在、誰もが日本一のゴルファーであると認める一方で、本人はプロに転向してからいまだに“快心のフィーリング”で打ったことがないと事あるごとに言う。背中、手の指、股関節、腰といった具合に、特にプロとしてのキャリアを歩み始めた頃は多発する故障に悩まされた。見る側からすれば考えられないが、松山はケガに悩まされる前の感覚を失った気がしてならない。それを追い求めながら、プロのキャリアを歩んできた。
「なんていうんですかね、野球で例えると『外角低めのストレートを投げられるピッチャーは強い』みたいな感じです。それってピッチャーの基本じゃないですか。それがあるか、ないかなんですよ。自分の中でもう一回、そこの“何か”が分かれば、おもしろいかなと。チャンスは…安定するかなと思うんです」
25歳にしてPGAツアーで5勝した。うち2つは準メジャーの格を持つ世界選手権で勝ちとった。メジャー制覇のために必要な実力はもう十分。タイミングさえ合えば、流れにさえ乗れれば……必ずその瞬間はやってくると信じているのは、なにも日本人ファンだけではない。
ただ、本人はそんな議論を真に受けるつもりはない。
「必要なのは流れだけ?いや、関係ないっすよ。流れが来なくても勝てる選手だったら、一番強いじゃないですか。僕が思うのは、それですよ」。彼の頭の中には明確な理想像がある。「それが一番強いときのタイガーじゃないですか。タイガーは自分で流れを作るのがうまかったのも間違いないと思うんですけど、流れが悪い時でも勝ってきたじゃないですか。そうでないとPGAツアーで、5試合連続とか6試合連続とかで勝てないじゃないですか」
頂点に立つ日は、もうすぐそばに来ているかもしれない。それでも、松山英樹が求めるのは激流にも抗える、強靭な逞しさ。全盛期のタイガー・ウッズの強さそのものである。(完・編集部/桂川洋一)
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