“飛ばない”ラッセル・ヘンリーに見た「日本人がPGAツアーで生きる道」
◇米国男子◇チャールズ・シュワブチャレンジ 最終日(31日)◇コロニアルCC(テキサス州)◇7289yd(パー70)
伝統の赤いタータンチェック柄ジャケットに身を包んだラッセル・ヘンリーは、取材会見場に現れると深く椅子に腰を下ろし、大きくため息をついた。冷めやらぬ興奮を落ち着かせたい――そんな雰囲気だった。優勝副賞の青い車「スクランブラー」の話を振られると、「エンジン音がすごいんだ!」と語り始め、ようやく白い歯を見せた。
PGAツアー通算6勝目により世界ランキングも5位に浮上。37歳は中堅からベテランに差しかかろうとする年齢だが、存在感は健在だ。上がり3連続バーディでプレーオフに持ち込み、1ホール目で決着をつける勝負強さ。やはり、ただ者ではない。
実は今週、ヘンリーの動きをよく観察していた。優勝したから“後出しジャンケン”で言っているわけではない。金子駆大や永峰咲希のコーチである目澤秀憲氏から「ラッセル・ヘンリーの取材をしてきてほしい」と頼まれていたのだ。
話は3週前の「全米プロゴルフ選手権」にさかのぼる。目澤コーチは初めてメジャーに出場した金子に帯同して現地アロニミンクGCにいた。かねて気になっていたヘンリーにお願いし、練習ラウンドをともにしたという。
「アップダウンの多いコースだったこともあり、GCクワッド(弾道計測器)でキャリー、スピン量、ランチアングルなどの数値を確認していました。『120ydをピッチング(PW)で打つと、このスピン量ならあそこに落ちて、こうなるよね』といった、とても細かいやり取りをキャディと交わしていたんです」と目澤コーチは振り返る。さらに「7番ウッドを入れるかどうかで相談していて、『ドローで打ってもスピン量4000回転で止められるから入れたほうがいいんじゃないか』と話していました。ヘンリーは飛距離の出るタイプではないのにPGAツアーの第一線で戦っているので、とても参考になります。金子プロも同じタイプなので、ヒントを探していました」と語った。
ヘンリーとのラウンドは9ホールで終わったが、メジャー前の緻密な調整は強く印象に残ったという。その上での今回のリクエストだった。
改めてヘンリーの今季スタッツを見ると、平均飛距離は145位(294.3yd)とツアーでは飛ばない部類に入り、平田憲聖(144位/294.7yd)や金谷拓実(147位/293.5yd)とほぼ同じ。一方で正確性を示すフェアウェイキープ率は71.77%で1位に立ち、ツアー平均58.65%を大きく上回る“フェアウェイファインダー”だ。さらにスクランブリング(パーオンしなかったホールでパー以下に抑える確率)も70.45%で1位と、ツアー平均60.57%を約10%も上回る。
つまり、フェアウェイに正確に置き、グリーンを外しても寄せてパーを拾う。その中には、ミスをしても寄せやすい“外しドコロ”まで考えたマネジメントも含まれている。パワーヒッターでなくともPGAツアーで活躍できることを証明している選手のひとりだろう。
目澤コーチからの指令は、「どんな考えでゴルフをしているのか」「どんな練習をしているのか」などを聞くことだった。練習日に観察していると、ある一連の作業に目がとまった。ウェッジで1球ずつ打ち、そのつどトラックマンで数値を確認し、キャディとああだこうだと議論する。そして、また打っては数値を見て議論を繰り返す。番手を変えても同様だった。
コレを見て思い出したのが、スコッティ・シェフラーがヘンリーを評価していた言葉だ。「ゴルフの本質はディスタンスコントロール。ラッセルは縦距離の安定性が誰よりも優れている」。実際、ヘンリーは練習場でひたすら縦の距離をチェックしていた。試合会場のコロニアルCCはクラシカルなコースで、ドッグレッグも多く、縦距離のコントロールが何よりも重要だった。飛べば有利ではなく、飛びすぎてランアウトし、バミューダ芝につかまるシーンを何度も見た。
もう一つ、ヘンリーを観察して印象的だったのは最終日の朝のこと。クラブハウス前の椅子に座り、キャディと何やら話し込んでいた。よく見るとコースメモを開きながら、「今日のピン位置だったらこのホールはこう攻めよう」といった具体的な“作戦会議”をしていた。1番イーグル、2番バーディのロケットスタートの裏には、こうした準備があったからに違いない(もちろん狙いどころに打てる技術があってこそだが)。
その周到さは、プレーオフ1ホール目(18番)のバーディの振り返りを聞かれたヘンリーの答えにも表れていた。
「今週ずっと風は右から吹いていて、(1打目の)狙いはクラブハウスの3つの窓を目印にしていました。フェードも検討しましたが、キャディのアンディがずっと『真っすぐ打つべきだ』と言い続けていて。風に流される前提だからそのラインがベストだと判断しました。プレーオフでも同じショットがいいか確認すると『100%それでいけ』と言われ、自信が持てました。ドライバーは完璧で、2打目も良かった。距離は135ydくらいでしたが、暑さで飛ぶので115ydの感覚で打ちました。結果、すべてがうまくいきました。パットは緊張しましたが、ルーティンを守ってラインにコミットしました」
そして、会見を締める最後のコメントがとても印象的だった。
「ここ数年、良いプレーはできていますが、それでも『勝つ難しさ』は常に感じています。一打も気を抜けないし、練習も一日もサボれない。すべてに100%が必要です。年齢を重ねるほどその大変さを実感していますし、ミスショットの記憶も増えて精神的な負担もあります。それだけに、勝てたときは本当に格別です」
ヘンリーの戦い方や練習への取り組み方は、同じように飛距離で劣る日本人選手にとって大いに参考になるはずだ。特にコロニアルCCのように、パワーゲームより縦横のコントロールが求められるコースであれば、なおさら張り合える可能性がある。来年、この試合で日本人選手が優勝することへの期待を込めつつ、目澤コーチへの回答としたい。(テキサス州フォートワース/服部謙二郎)