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2022年 マスターズ
期間:04/07〜04/10 場所:オーガスタナショナルGC(ジョージア州)

背筋の凍る1年間 松山英樹は連覇かけ11度目のマスターズへ/独占告白

「マスターズに、出られるんだろうか」。開幕を4週後に控えた頃、ディフェンディングチャンピオンの鼓動は突然、速くなっていった。

◆「起き上がれない。助けて」

3月初旬、フロリダでの「アーノルド・パーマー招待」期間中に首から肩甲骨にかけて痛みを発症した松山英樹は、翌週の“第5のメジャー”「ザ・プレーヤーズ選手権」を初日スタート前に棄権。3週にわたって戦列を離れた。

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「パーマー招待のときは『ちょっと時間が経てば大丈夫かな』と思っていた。今までも、試合をやりながら良くなっていたときがあったから。でも、どんどん痛みがひどくなって。プレーヤーズのときは月曜日(開幕前)に痛みがだいぶ取れて『行けるかな』と思ったが、木曜日(初日)の朝は話にならないほど痛かった」

そのままコースからオーランドの自宅に車で帰っても痛みは癒えない。翌金曜日の夜。ついにはベッドで眠ることすら、ままならない状態になった。「寝返りを打つたびに痛みで目が覚めた。ベッドで寝ていても痛い。硬い床の上だったら大丈夫じゃないかと思って、リビングのソファの横で寝たんです。それで起きたら、もう起き上がれなくて。身体を反対にすることすらできない。どうやったら起きられるんや…と」

手元にあったスマートフォンを取り、別の部屋で眠っていた早藤将太キャディ、岩井幹雄トレーナーにメッセージを送った。「起き上がれない。助けて」――。

近くの病院でMRI、CTスキャンによる精密検査を受けた結果、幸い、大きな異常はなかったという。週明けに渡米した飯田光輝トレーナーもケアに加わり、ようやく練習を再開できるようになった。フルスイングへの「怖さが取れた」のはマスターズの2週前。「WGCデルテクノロジーズ・マッチプレー」を欠場してカムバックに努めた。

ところが、「周りが思う以上にひどかった」痛みは、復帰戦となった前週の「バレロテキサスオープン」で再発した。開幕前日のプロアマ戦を急きょ欠場。その前日までコースの練習場で熱心に打ち込んでいたことを思えば、まさかの、痛恨のアクシデントだった。2日目の9ホールを終えて途中棄権。史上4人目の「マスターズ」連覇という快挙への道は険しい。

◆危機だからこそ

大一番を前にして、状況は危機的であると言っていい。ただし、PGAツアーでの約9年間に及ぶキャリアを振り返れば、ピンチでこそ懸命にゲームを作ってきた。それはアイアンショットを筆頭にする個々のハイレベルな技術以上の、松山の「強さ」の真骨頂と言うべきものかもしれない。

3月、マスターズは「“ぶっつけ本番”でも、まあイイかなという思いもあった」という。前週のサンアントニオでプレーしたのは、わずかでも試合勘を取り戻そうとしたのと、連戦にした1年前と同じ流れをくむ意味があった。

「けがをしてしまったことはもう仕方がない。(2月末に)フロリダに来るとき、スイングについて考えていた。やるべきことが定まってきそうかなというところでのけがだった。でも(痛みを抱えていた)パーマー招待では最終日に良いスコア(アンダーパーが4人だけの難コンディションで『70』)で回れた。そういうきっかけや、つかむものは、体を痛めているときにもあるはずだと考えている」

昨夏の「東京五輪」は新型コロナウイルス感染、復帰直後の試合で4位。優勝した「ZOZOチャンピオンシップ」の直前までは散々な出来だった。今年の「ソニーオープンinハワイ」も練習場では連日、調子が悪かった。それでも勝てたのは、やはり1年前の経験が生きている。

「去年、最悪の状況から一気にポンッと良くなって、マスターズに勝てたのは自分にとってひとつ大きい。それまでも試合の直前まで悪かったのに勝てた試合もあったけれど、何カ月もずっとうまくいかず、上位にも入れなかった(2021年はマスターズが初のトップ10入り)のに勝てて、『こういうこともある』と受け入れられた」

◆金谷と中島の存在は

今年のマスターズは2大会ぶりに複数の日本人選手が出場する。23歳の金谷拓実と21歳のアマチュア中島啓太。彼らは自分の足跡を追うように、世界アマチュアランク1位、アマ時代に国内ツアー優勝、マスターズ出場…とステップアップしてきた。

東北福祉大出身の後輩である金谷には3月、米国遠征中の調整の場を提供した。けがで休養していた時期に自宅に招き、練習に付き添った。「上を目指そうとしている選手のプレーを見ている方が自分のためにもなる。金谷は飛距離も伸びてきた。とにかくプレーが早いことが素晴らしい。僕は考えてしまって遅くなるタイプだから余計にそう思う。あのプレーの早さは、強さ。プロになって、自分が思い描いた通りにいかず苦労している。アマチュアでやっていた時とはやっぱり違うから。世界で、いろんなゴルフ場に行って毎回感じることがある。ただ、(好結果を早く求めて)スコアを作ることも大事だけれど、そこに対応しすぎるのはまだ早いかも。自分の理想をもっと追い求める気持ちがあってもいい」

日体大の中島は、これまで大学が違う松山には近づきがたい思いがあったという。1月の「ソニーオープンinハワイ」で優勝した直後、連絡先を交換したのは松山の申し出によるものだった。「『いつでも連絡してきて』と。啓太も彼なりに苦しんできた。特に(痛みがあった)腰や背中との付き合いは難しかったはず。すごく良いスイングをする選手。ただ、毎週、負けて泣くようでは(プロでは)やっていけないところもある。少しずつ変わっていかないと。まあ…僕も、(2012年)マスターズや(17年)全米プロで悔しくて号泣しましたけど(笑)」

若い選手の台頭は松山自身が長らく望んできた。ただし、彼らの存在が自分を最大級に奮い立たせているかというと、必ずしもそうではない。“壁”としてまだ揺るがない自信もある。

「刺激にはなるけど、正直なところ…まだ“頑張って”と思うくらい。僕にもPGAツアーでずっとやってきたプライドはある。世界ランキングで何年後か…実際に近づかれたときに『負けたくない』と思わされるし、本気でライバル視することになる。そのときにはさらに自分を追い込んでいかないといけないという気持ちになれる。彼らはまだ23歳と21歳。いますぐ求めるのは酷だけど、もっと強くならないといけない。でも2人とも気持ちが強いから。いつ乗り越えてくるかは楽しみだなって」

◆30歳、ウッズと祖母

2月25日に30歳になった。活躍が楽しみな後輩たちが若さに任せて奮闘している様子がうかがえるからこそ、齢を重ねた自分、これからの自分に思いを巡らせる。

「どの選手も30歳から35歳でピークを迎えるはず。もちろん、ジャンボさんのような例外もあるけれど。この先の5年間はすごく大事な、一番大事な時期じゃないかなと思う。そこから先は“惰性”でできるかもしれない。メリハリをつけるのがこれからは大事になる。試合会場でダラダラ練習することはできなくなるし、もっと短期で『ガッ』と追い込まないといけなくなる。この5、6年をどれだけ頑張れるか。まあ、35歳になったら『この先の5年が大事』とか言っているかもしれないけど」

いつも目を前にしか向けていないようで、昨年はふと立ち止まり、「これから」に思いを巡らせるきっかけがいくつかあった。「いつ死ぬか分からない、ということを、自分には何が起こるか分からないということをすごく感じた」

昨年2月、タイガー・ウッズが自動車の単体事故で大けがを負った。一命を取り止めはしたが、かつてのトップフォームでプレーできる日が戻るかは不透明だ。「(ウッズは)死んでいてもおかしくなかった」

9月の初め、祖母が他界した。「シーズンが終わってすぐ、突然だったから。すごく元気だったから精神的にしんどかった、本当に」。翌月の「ZOZOチャンピオンシップ」での優勝は「“四十九日”までに絶対に勝つ」という覚悟で臨んだ結果だった。

愛媛県内の実家に帰省していたオフの間、松山は祖母の墓を訪ねた。「帰った時はいつもだったら家に入って談笑していたけれど、もうおばあちゃんの家には誰もいない。山の上にあるお墓。ひとりで上がったから、また…。ダメだね、思い出すといまだに泣いてしまう。直前の2試合がポンコツ過ぎたのに、ZOZOで勝てたのは見えないところで力が働いたんだと思う。僕の優勝を強く望んでくれた人がたくさんいた」

「好きなゴルフをやってこられたけれど、いつできなくなるかも分からない」と思うと背筋が凍る。「だから、日々を大事に過ごしたほうがいいんだろうなと。その場、その場でどれだけ全力でできるかが大事じゃないかと思う」

◆確信したオーガスタ攻略法

キャリアのピークを推し量りながら日々を過ごす一方で、マスターズチャンピオンには生涯にわたる大会への出場権がある。10回目の出場でオーガスタを制し、これまで思い描いてきた攻略法は確信に変わった。

「オーガスタはパット、特にタッチが合わないと戦えないのが根本にある」という前提に加えて求められることが「行ってはいけないところに打つ回数を減らすこと、行ってはいけないところからの対応力」だという。

「日々のピンポジションによって、絶対に打ってはダメなところがある。“行ってはいけないところに行かせない”ショット力が必要。ただ4日間、72ホールをプレーしていれば行ってはいけないところに、行くことは必ずある。そこからアプローチとパターでどれだけしのげるか。例えば去年、3日目の18番、(グリーンの奥にこぼした)2打目なんて“論外”。でも、そこを寄せて(パーにして)最終日につながった」

ゴルフ界随一の華やかさを誇るトーナメントで、選手たちには他コースでプレーするときより何倍もリスクを警戒し、一打、一打を積み上げていく堅実さが欠かせない。

◆11回目のマスターズは別格

オーガスタナショナルGC伝統のグリーンジャケットをコースの外に持ち出せるのは、その年のディフェンディングチャンピオンだけという慣習がある。松山も間もなく、クラブに収めなくてはならない。「あと少ししかないと思うと寂しさしかない」

前年王者は開幕2日前のチャンピオンズディナーでホスト役を務める。表彰式ではグリーンジャケットの授与を行う(敗れた場合)。伝統的かつ特別なイベントに参加するが、それ以上に贅沢な時間を忘れてはいけない。

「マスターズの連覇は3人(ジャック・ニクラスニック・ファルドタイガー・ウッズ)しかしていない。その難しいことに挑戦できるのは今年、僕しかいない。プレッシャーは別格。去年の最終日もヤバかったけれど、それ以上に緊張するんじゃないかと思う。ディフェンディングチャンピオンとして見られて、あの1番ティに立ったときに、去年よりも多分緊張するのでは。でも、それはすごくうれしいことだから。どう受け入れて、やれるか楽しみです」。さあ、11回目のマスターズの始まりだ。(編集部・桂川洋一)

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