“傷口”ふさがった松山英樹 予選注目組に名物パー3「オナーで打ちたい」
2022年 WMフェニックスオープン
期間:02/10〜02/13 場所:TPCスコッツデール スタジアムコース(アリゾナ州)
大歓声“スタジアム” 松山英樹「ゴルフ場ではない」
◇米国男子◇WMフェニックスオープン 事前情報(9日)◇TPCスコッツデール(アリゾナ州)◇7261yd(パー71)
チャンスなら大声援、グリーンにのらなければ大ブーイング。TPCスコッツデールの名物パー3、16番は「観るゴルフ」の究極かもしれない。外周を取り囲む巨大観覧席が飲み込むファンは約2万5000人。“打つときはお静かに!”の観戦マナーの常識を覆した、喧騒と熱狂に満ちたホールだ。
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「もうココはゴルフ場ではないと思ったほうがいい。野球場」と松山英樹は笑う。ティイングエリアから見上げた景色はボールパークのそれ。場内にアナウンスが響きわたり、横長の電光掲示板には選手名とスコアが勢いよく滑る。鼻腔をくすぐるアルコールの香り。手を挙げてファンの声をあおり、ティショットを放つ選手もいる。
「僕は周りを盛り上げるタイプじゃないけど、本当はあれをやったら絶対おもしろいんだろうなと。でも、絶対にできない。なぜ? 恥ずかしいから!」(松山)
スタンドへのエントランスには日中、長蛇の列ができる。観覧エリアは無料の一般席とともに10人余りが集まれる“ボックスエリア”を用意。価格は1スペースあたり数百万円(大会期間中通し)が相場で、企業が得意先をもてなす目的で購入するケースが多い。一流プロのテクニックとゴルフ場らしからぬ演出は優良コンテンツ。ゴルフ観戦を交流、接待の場として利用するビジネスが成り立っている。
163ydのパー3。PGAツアー選手が握るクラブは8I、9Iといったところで、設定距離だけならば難なく通過したいホールではある。だが、松山は異様なムードと歓声を差し引いても、このスタジアムホールには特有の難しさがあると説明した。
「グリーンは大きく見えるけれど、止められるところは意外と狭い。左奥のエリアはとくに狭い。それに時間が経つと乾燥してしまうので硬くなる」。グリーンは砲台気味で、真横から見ると起伏が実に大きいのが分かる。距離が130ydほどになりホールインワンも期待される左手前にピンが立つ日も、「硬いのに、スピンがしっかり入ってボールが手前に戻ってしまう難しさがある」と短いクラブを持つからこその大変さもある。
一番の敵はこのスタジアム形状が生む風の問題。「スタンドよりも高い球は風の影響をすごく受ける。スタンドの上と下で球筋が変わってしまう。(千葉の海沿いにある野球場)ZOZOマリンスタジアムでやっているようなものかな」。他のホールと違い、周辺がスタンドで遮られているため、強さだけでなく向きが把握しにくい。「普通ならティで風を感じて考えるけれど、ここではそれが当たっていることはまずない」。スタンドに掲げられた各国の国旗の動きは「頼りにならない。前のホールまでの風向きを覚えておかないといけない」そうだ。
開幕前日、イン9ホールをプロアマ戦で回った松山は午後1時前に16番に登場。DJが場内に爆音で流すダンスミュージックを受け、マスターズチャンピオン、そして今大会2勝と紹介されるとギャラリーから声援を浴びた。8Iでのティショットは見事ピンそば50㎝にピタリとつけ大歓声。タップインでバーディを決め、グリーン上でバンザイを繰り返した。
あす以降に向けた“予行演習”は最高の結果。観る者を魅了し、そのリアクションを肌で感じることはツアープロの醍醐味といえる。「グリーンにのって、チャンスのときなんかは楽しい。いいねえ、歓声がすごいなあと思うけど。のらなかったらツラい。気分はもう“無”(む)。無にしてボールのところまで歩く。無にならないとやっていけない」。のれば天国、のらずば地獄。2打目地点へ歩くその顔、本番もしかと拝見したく。(アリゾナ州スコッツデール/桂川洋一)