シェーン・ローリー “ホーム”でつかんだメジャー優勝
2019年 全英オープン
期間:07/18〜07/21 場所:ロイヤルポートラッシュGC(北アイルランド)
ゴルフは「オープン」なのか/実況アナ点描
2019/07/22 18:57
シーズンのメジャー最終戦となった「全英オープン」は今年、北アイルランドのロイヤルポートラッシュGCで開催。普段は米ゴルフチャンネルで欧州ツアーをメーンに実況する小松直行氏は今週、ゴルフネットワークで連日ゲスト解説を務めた。米国に拠点を置くゴルフアナリストが日々の熱戦の風景を切り取る。
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全英オープンはシェーン・ローリーが勝ち抜いた。今年最後のメジャーの勝者が決してみると、まだ7月だというのに2019年の回顧モードに入ってしまう。
世界中からの挑戦者が出場権を自力で勝ち取る予選のある点で、全英オープンと全米オープンは競技ゴルフの頂点を決める試合としてふさわしい。今回の本戦にも年齢なら18歳のアマチュアから60歳のトム・レーマンまで、29カ国からの選手が集まった。文字通り「オープン」だな…と考えて少し考え込んだ。本当にオープンなのか…。
女子がいないのは当然、と思っていいのだろうか。女子も予選に挑んで勝ち抜けば出場できるが、いまだ女子選手を見ないことの理由を我々は科学的に説明できるだろうか。社会的、心理的制約が女子ゴルファーの挑戦を阻んではいまいか。ゴルフに限ったことではないが、出場選手の性別や人種的な偏りの理由を、そうなっているのだから仕方ないと納得してしまっていいとは思えない。
今年は男女混合の試合が欧州ツアーの公式戦にお目見えした。欧州2部ツアーにはさらに50歳以上のシニア男子も加わって3ツアーのプレーヤーからなる公式戦もあった。ともに出場者からも好評で、主催者は手応えを感じているようだ。全英女子オープンの賞金総額は前年より40%増の450万ドルと発表されているが、男子の全英オープンは1075万ドルだから女子は男子の42%弱だ。テニスのグランドスラムでは男女優勝者の賞金は同額。ゴルフにそういう日は来るのか…。
今年は障害を持つゴルファーの公式世界ランキングが創設された。すでに世界各地で開催されている競技会に加えて、スタープレーヤーが多く出場する欧州ツアーの大きな試合と同時開催で、プロたちと同じコースを回る2日間競技が、同ツアーの後援で2試合設定された。すでに1試合がスコットランドで行われ、出場者たちも、そして欧州ツアーのプレーヤーたちも、お互いにおおいにインスピレーションを受けたと話していたのは印象深い。いつか全英オープンに、障害を有するゴルファーが出場する日は来るのだろうか…。
ゴルフにはハンディキャップがある。力量の異なるゴルファーが一緒にプレーするための仕組みだ。使うティを選んで距離の差を埋める方法もある。体力や技術の差がなくなるわけではないのは歴然だし、いずれも便宜に過ぎないが、競技となるとまったく同じ条件でなければならないように思われるのはなぜだろう。今回の全英オープンでスタート時間によって気象条件があんなに違うのを見れば、公平な条件とは言えないのは明らかだ。
全英オープンに先立ち、1995年の勝者ジョン・デーリーが電動カートの使用を申請した。膝の故障で歩くのにひどい苦痛が伴うという理由だったが、R&Aは認めなかった。ゴルフ界には、歩くことも競技の一部だという考え方が根強い。しかし、同じコース、同じプレーヤーたちの競技で、カートを使った場合と使わない場合のスコアの差についての研究論文を私はまだ見たことがない。スロープレーで悪名高きブライソン・デシャンボーが「300ヤード以上飛ばせば、次打地点まで歩くのに2分半かかる。プレーを早くしたいなら早足で歩けと勧めるべきだ」と言っていたが、「時短」を目指してルール改正までしたゴルフの本質的価値とは何なのだろうと、これまた考え込んでしまう。
道具をめぐるもんちゃくもあった。156人の選手のうち30人が無作為に選ばれてクラブが規格に適合しているかどうかの検査を受けたが、今年はドライバーが規格外の高反発だと判明した選手が3人ほどいたらしい。そのうちのひとり、ザンダー・シャウフェレは「アンフェアだ。156人全員のクラブを検査すべきだ」と言った。それも一理あるように聞こえるが、もとより規格違反の高反発クラブを使ってどの程度スコアが良くなるのか、実際に実験したという話を聞いたことはないから、そもそも規制に意味があるのかとも思えてくる。出場者の2割を無作為に選ぶドーピング検査の方は結果が漏れ聞こえてはこないが、同じ論議はありそうだ…。
ああ、悩ましい。とりあえず私はことあるごとに放送席で叫ぶつもりだ。「ゴルフ・フォー・エブリワン!」
小松直行(こまつ・なおゆき)
1960年横浜市生まれ。筑波大体育専門学群卒、東京大大学院教育学研究科博士課程中退。教職、マスコミを経て、スポーツ科学全般を学んだ背景からゴルフに入れ込み、90年代からトーナメント中継に関わる。2002年に渡米し、現在は米ゴルフチャンネルで欧州ツアーを中心に年間約40試合の実況をしている。フロリダ州オーランド在住。