「勇気のいるサウナ」Levi, Finland
「テーブルから消えたものは?」Pinehurst, North Carolina
2019/09/08 10:30
ベーカリーカフェという看板を掲げたその店に着いたのは、8月のある土曜日の昼下がりだった。場所は「全米アマチュアゴルフ選手権」が行われていたノースカロライナ州パインハースト。地元の人気店のようで、散歩途中のカップルや犬を連れた家族連れがにぎやかに出入りしていた。店内には焼き立てパンが並んでいて、奥にはキッチンもある。イートインの場合、レジで注文して札をもらい、テーブルで待つというシステムだ。
(これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である)
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オムレツとトースト、それにカフェラテを注文してテーブルで待っていると、しばらくして店員が食事を載せたプレートを運んできた。同時に、通路をはさんだ隣の席から「大きなオムレツね!」とおどろきの声があがった。振り向くと、小さなテーブルに老夫婦が仲良く向きあって座っていて、ご婦人がこちらを見てにっこりと微笑んでいた。
ほどなくして、別の一団が入ってきて奥の席に陣取った。小学校入学前くらいの男の子を連れている。お母さん(らしき人…以下省略)が「なにを食べたい?」と尋ねると、「マフィン!」と元気な声で返事をしている。連れの1人がレジでオーダーをしている間にも、お母さんと子供のやり取りが背中越しに続いていた。
「目を閉じてね。いい?」というお母さん。「はい、テーブルから何がなくなった?」
テーブルには塩コショウやケチャップ、メニューなどが置かれている。ちょっと考えてから「ナプキン?」と答える男の子の小さな声。「当たり!よくわかったわね」というお母さん。「じゃあ、もう1回目を閉じて。はい、今度はなにがなくなった?」ちょっと難しい問題を出したのだろうか?困ったように「マフィン?」という男の子に、「まだ来てないでしょ」と言うお母さん。周囲をほのぼのとした空気が包んでいた。
すると、隣のテーブルからも「目を閉じてごらん」というしわがれた声が聞こえてきた。ちょっと照れながら目を閉じるご婦人に、「はい、なにがなくなった?」というご主人の声。数秒考えてから、「メニュー!」と正解を言い当てたご婦人が、嬉しそうな顔をこちらに向けるものだから、自分も思わず満面の笑みで親指をあげて「いいね!」を返した。
その老夫婦はゆっくりと席を立ち、奥の一団に「あなたたち本当に素敵ね」と伝えてから去っていった。すれ違いざま、自分にも優しい目配せをしながら…。(編集部/今岡涼太)