著名人の優勝予想/第5回 日本オープンゴルフ選手権競技
谷口徹が、4日間首位を守って大会初制覇/日本オープンゴルフ選手権競技
ツアー通算8勝目は、2年ぶりの復活優勝
18番ホールで、谷口が舞った。奥から4メートルのパーパットを決めた瞬間、両手を空へと高く突き上げた。その姿勢のまま身をひるがえし、3歩、4歩とステップを踏む。
復活の舞。その最後の締めは、やはり、トレードマークのガッツポーズだった。
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優勝の興奮が去ると、やがて静かな喜びが訪れた。拭っても、拭っても、あとからあとから頬をこぼれ落ちていく涙が止まらない。
4日間、首位を走り続けた重圧。最終日はこの週、いちばんの強風が吹き荒れた。海からの風に翻弄されて、数え切れないほどのピンチを迎えた。突き放したと思ったら追いつかれた。
息詰まる接戦。苦しい・・・本当に苦しい戦いだった。難コースと真正面から向き合って、激戦を制した。ただひとり、アンダーパーをマークして、日本一の座についた喜び。
「いろんなプレッシャーとか、これまで大なり小なりいろいろあって。それを克服して勝てた自分に、満足感がある」
賞金王に輝いた2002年から、遠ざかっていた勝ち星。その年末にはふいの病に倒れ、ゴルフどころか普通の生活をするのも精一杯というつらさも経験した。
ようやく復帰しても、再発の不安から、ゴルフに対して以前のような情熱を感じることができなかった。そのうち、どんどんと新しいヒーローが誕生していった。「俺ももう、過去の人なのかも・・・」いつしか、優勝候補から自分の名前が消え、誰にもマークされなくなったことを自覚した。
一度頂点に立ちながら「落ちるところまで落ちた」。その屈辱が、再び谷口の心に火をつけた。「また1番になって、みんなを見返してやろう」。
そんな思いに突き動かされて、今季、テイラーメイドと新しくクラブ契約を結ぶなど、復活への階段を1段、1段、地道にのぼってきた。
ふいの顔面神経痛と体の痺れに襲われて、緊急入院したのは一昨年前の冬だった。診断を受けた左頭部血管腫という病は、いまも薬で散らしている状態で、完全に治ったわけではない。いつ、また再発するかもわからないという恐怖は、ゴルフをしている時だけ完全に忘れることができた。
「やっぱり、ゴルフはやってて楽しいから。嫌なことなんか、ゴルフをしているうちにいつの間にか、すべて消えてしまうから」
この優勝で、5年間の複数年シードを手にしたが、「そんなもの、当てにしていない。それに甘えたら選手は終わり。毎年、賞金ランキングでシード権を手に入れることが大事ですから」と、谷口は言った。
来年、セント・アンドリュースで行われる「全英オープン」への資格も手に入れた。世界ランキングのポイントも、これでまたグっと上がるだろう。
再び、世界への扉が開きつつある。
「また、オーガスタに行けるチャンスも出てきたしね。これから終盤、毎週優勝する、くらいのつもりで頑張りたい」
2年前、賞金王を取ったときにみせた、ふてぶてしいまでの前向きさが、また谷口の心に戻ってきた。