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2018年 全英オープン
期間:07/19〜07/22 場所:カーヌスティ(スコットランド)

佐藤信人の視点 勝者と敗者

“切れやすい男”返上のジョン・ラーム 全英へ準備万全

全英オープンで活躍が予想される選手の中に、いま最も勢いを感じる選手がいます。それがジョン・ラーム(スペイン)です。

彼は昨季まで欧州ツアーを主戦場としていましたが、今季から米ツアーに本格参戦。春先には「キャリアビルダーチャレンジ」優勝、マスターズ4位と存在感を示している強者です。すば抜けた身体能力から生まれる飛距離と、小技のうまさを武器にアマチュア時代から数々の栄誉を手に入れてきました。

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松山英樹選手やダスティン・ジョンソンら世界のトップクラスの選手に共通して言えることですが、一度ハマり出したら止まらない。未知数の強さを発揮するプレーヤーの一人。そのハマリ方は誰も手がつけられないほどで、メジャーを制する候補者として申し分のない実力を持ち合わせています。

彼の唯一の欠点が“切れやすい”というメンタルの弱さ。セベ・バレステロスセルヒオ・ガルシアといった、祖国スペインの先輩らも似たようなタイプが多いのですが、彼も例外なく気性の荒いタイプ。先日もインタビューで、記者から「イラついてしまう原因をどのように考えているか?」といった主旨の質問に、「もともと静かにゴルフをするタイプではない。感情を押し殺してプレーしていると、スコアも思うようにいかない」ときっぱりと言い放ち、感情の起伏が激しいことを認めていました。

そのような彼が変わった姿を見せたのが、欧州ツアーでの直近2試合の戦いぶりです。「フランスオープン」では最終日、トップ争いに加わろうかと折り返した矢先の12番(パー4)。ラフからのショット中、カメラマンにシャッターを切られたことで気を削がれて、トリプルボギーをたたいてしまいます。怒りを露わにしたラーム。これまでの彼であれば、この時点で終わっていたのですが、彼はそこから気持ちを整理し、上位に喰らいつきます。結果的に優勝こそ逃しましたが、18番でバーディを獲れればプレーオフというところまで迫りました。

翌週の「アイルランドオープン」でも最終日、2番で痛恨のトリプルボギーを打ってしまいます。この時もかなりいら立っている様子でしたが、ここから彼の成長の片鱗が見られました。前週と同じように立て直し、ここでも最終ホールでイーグルを獲れればトップと並ぶところまで戻しました。ピンまで残り70ydというアプローチショットは、惜しくもピンに蹴られますが、入っていればプレーオフというところまで迫ったのです。そこにはメンタルの弱いこれまでの彼の姿は、どこにもありませんでした。

ゴルフではマナーやルールの範囲内であれば、喜怒哀楽を表に出すことは大きなマイナスとは思いません。モチベーションを上げたり、ストレスを発散して前に進めたり。感情を顔に出さない静かなゴルフを特徴とするプレーヤーがいれば、その逆で一喜一憂しながら気持ちをコントロールする選手もいます。彼のようなタイプは、感情とともに自分のプレーや、マネジメントを瞬時に切り替えながら、攻めるときは攻め、守るときは守るメリハリのある戦い方ができるのだと思われます。

いよいよ来週に迫った全英オープン。欧州勢としては、「フランスオープン」を制したアレックス・ノレンや昨季欧州ツアー賞金王トミー・フリートウッドら優勝候補を挙げるとキリはありませんが、その筆頭に“切れやすい男”から“切れても終わらない男”に成長したジョン・ラームを推したいと思います。

佐藤信人(さとう のぶひと)
1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。

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