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佐藤信人の視点 勝者と敗者

ミケルソンにあってウッズにないもの

「WGCメキシコ選手権」は、フィル・ミケルソンがプレーオフの末、前週優勝のジャスティン・トーマスを破ってWGC最年長優勝記録を樹立しました。

宮里優作選手や小平智選手ら、日本人選手を苦しめたポアナ芝のグリーンをしっかり攻略し、ほぼノーミスと言える巧みなパッティングを見せつけての優勝。特にショートパットの安定感は他を圧倒していました。

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彼の持ち味であるトラブルショットも冴えわたり、どれだけティショットを曲げて林に入れようとも、あの手この手でグリーンまで持ってくる技術は圧巻でした。観ているこちらが楽しくなるようなプレー。まさに「これぞミケルソン」と言わしめるショットの連続で、会場は“ミケルソン劇場”と化しました。

ツアー42勝(今大会で43勝目/うちメジャー5勝)の最強レフティーも、いまや47歳。約5年の間、優勝から遠ざかってしまっては「もう優勝できないのでは?」とつい考えてしまうのが当然です。ですが、今季のミケルソンは例年になく優勝への手応えを口にしていました。

試合後の会見で、昨季までは「優勝したい」「優勝を狙う」といった感じの言葉が多かったのですが、今季は「近いうちに優勝できる。絶対に…」といったニュアンスの発言に変わっていたのです。そして結果も今大会前に3試合連続でトップ10入り。優勝争いに何度もからむ活躍を見せていました。

この揺るぎない自信はどこから来るのか? それは彼の“信じ込む強さ”だと思われます。長年連れ添ったキャディを替え、新たなコーチの教えを請い、新たなスタイルに踏みきるという行為は、簡単なようでなかなかできるものではありません。普通なら苦渋の決断を要しますが、彼はあっさりと実行に移してきました。一度信じたことは迷わず実戦投入、結果が出るまで信じきる。この信念の強さが今回の優勝につながったのだと思うのです。

長年彼と世界のトップを争ってきた42歳のタイガー・ウッズは復帰後の会見で、よく現状と昔とを比べる発言をします。「(この年齢を考えると)若いメンバーと戦ったときには…」「(以前より)飛距離は落ちてしまったので…」といった内容。これはウッズが現状を不安視しているからこそ出てしまう言葉。やや自信のなさからくる発言のような気がします。

ミケルソンの口からは、このような発言を聞いたことがありません。現状も設定したスタイルも、信じきっているからでしょう。彼にとって、いま置かれた状況や立場は、逆に楽しめる材料でしかないように感じてしまうほどです。いまはいま、昔は昔。現在のツアーで若いライバルたちと切磋琢磨し、自身も楽しんでプレーするというスタンスが見て取れます。

ウッズが圧倒的なコースマネジメントや迫力あるプレーで観衆を沸かせる存在ならば、ミケルソンは巧みな技術とユーモアを交え、楽しいゴルフを見せてくれる“演出家”といった印象です。例えるなら、ウッズは帝王ジャック・ニクラス。ミケルソンは多くのギャラリーに愛された故アーノルド・パーマーになぞらえられるかもしれません。

それぞれに違った角度で、いまなお多くのギャラリーを魅了し続ける2人。まだまだ彼らの役割は十分に残っています。開幕まで残り一カ月を切った「マスターズ」に向け、まずは1人の大物役者が舞台のそでに立ったといったところでしょうか。(解説・佐藤信人

佐藤信人(さとう のぶひと)
1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。

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