世界トップクラスの資質 藤本佳則の“慎重さ”【佐藤信人の視点】
手堅さ加わったジャスティン・トーマスの強さ
「ザ・ホンダクラシック」は、ジャスティン・トーマスの強さが光った大会となりました。
まさにメジャーチャンピオンという強さ。もともと攻撃的でアグレッシブなタイプでしたが、加えて接戦にも強い“手堅いゴルフ”を展開できるようになった印象を受けました。
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ツアー通算8勝のうち最初の4勝はすべて20アンダーを超え、バーディを量産して圧倒する勝ち方が多かった。それが今季の2勝も含めて、手堅い試合運びや細かい駆け引きでしっかり結果を残しているのです。
彼は非常に気分屋な性格でミスショット後に激怒する姿が頻繁に見受けられました。以前はそのウィークポイントがプレーにも影響し、ドライバーを持たなくて良い場面で持って自滅…といった展開が多かったです。
そんな彼が劇的に変わったのには、昨季年間王者になった際に話題となったスマートフォンに記した「13の目標」の中に隠されているように感じます。彼が掲げた13項目の1つに、「ショートサイドには外さない」というものがあります。これは例えばピンがグリーン右側に切られた際、グリーン面が狭い右サイドにボールを外すとアプローチの落としどころが狭くなり、ピンに寄せにくくなるといった危険を回避するというもの。
安全策としてグリーン左サイド、またはやや真ん中。どんなにミスしても右サイドには絶対に外さないという意味です。この目標を掲げることで、彼のゴルフは変わったと考えられます。
もともとトーマスは、同学年のジョーダン・スピースと比べられることが多く、常に彼の背中を追いかけてきました。ジュニア時代もプロ転向後も、メジャー優勝も、スピースが突き進んだ道を常に追っている存在でした。そんなトーマスが、アグレッシブさも手堅さも手に入れたいま、まさにオールラウンダーとしてスピース以上のパフォーマンスを見せています。
特に改善された点は、アプローチの精度です。以前よりスイングスピードをゆったりさせ、一定の感覚で終始軸がブレないショットを放つことで、スピンコントロールが思い通りにいくようになりました。彼の代名詞であるドライバーの飛距離があれば、一発でグリーン付近まで運べます。あとは残り100yd圏内。今季はこの距離のショットをかなり磨いたようにうかがえます。
今大会も含め「マスターズ」が1~2カ月後に迫った試合は、多くの選手がショートアイアンでのスピンコントロールを試す時期でもあります。オーガスタの氷上グリーンに対応できる精度を準備しておきたいからです。今回の優勝で、その精度にも自信をもって「マスターズ」に乗り込むことができるトーマス。親友でありライバルでもあるスピースと、どのような勝負を繰り広げるのか―いまから待ち遠しく感じます。(解説・佐藤信人)
- 佐藤信人(さとう のぶひと)
- 1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。