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佐藤信人の視点 勝者と敗者

爆発力と守ってやり返す トーマスの“らしさ”詰まった優勝

“らしさ”が詰まった優勝でした―。米ツアーのプレーオフシリーズ第2戦「BMW選手権」はジャスティン・トーマス選手が、通算25アンダーで完勝。3日目に「61」(パー72)で首位に立ち、後続に詰められた最終日は攻守で成長の跡を示しました。

3日目のコース記録となる11アンダーは、キャリア初めの4勝を20アンダー以上で制した爆発力が出ましたが、さらなる成長は最終日にありました。着目したいのは、後半11番からの3ホールです。

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10番(パー5)で2打目をあわやOBというミスでボギー。6打差あった同組の2位パトリック・カントレーとは2打差に。11番のティショットは右ラフで、ピンが右サイドだったため、現地放送の解説者は「これは厳しい」と言いました。ただ、2打目でピンを刺してバーディを返したのは、彼の本来の攻撃力の高さです。

ティショットが木の裏に落ちた12番では冷静にレイアップし、残り86ydを4mにつけてパー。唯一豪快にガッツポーズした場面を、本人も「ここが大きかった」と振り返りました。さらに13番(パー3)は先にカントレーが長いバーディパットを入れた後に、4mを入れ返す。流れを左右する局面で、勝負強さを証明しました。

トーマス選手の資質として、目の前の相手を倒すのに強いタイプという感じがします。相手に見せられた一打を上回るショットやパットを放つことが多いためです。ここ数年、彼は攻守のバランスが非常にとれているように見えます。

本来は超攻撃的な選手です。前出の通り、20アンダー以上の伸ばしあいこそ、彼の真骨頂。ただ、初めてメジャーを制した2017年「全米プロゴルフ選手権」から我慢比べも苦にしなくなりました。年間王者になった17年に、彼はスマートフォンに13の目標を記していました

その最後に書かれたのが、「ショートサイドに外さない」でした。以前の彼はアクセルを踏み込み過ぎて自滅。イライラが募り、50台を出すけれど勝利数は多くないという印象がありました。とはいえ、非常にクレバーな選手で、自分を俯瞰して見ることができるのも強みです。自らの欠点を補うため、ベテランキャディのジミー・ジョンソンと組み、冷静なマネジメントで完璧なコンプリートプレーヤーになったのです。

実力のわりに話題性という意味では注目されにくい選手かもしれませんが、トーマス選手のインタビューを聞いていると、頭が整理されていると思います。今季からプレーオフシリーズの仕組みが変わり、最終戦はポイントランク1位の権利で、2位カントレーに2打差のほか、後続選手に差をつけ10アンダーから72ホールのストロークプレーをスタートします。

この仕組みについて問われ、「昔挑戦したQスクール(来季出場権をかけた予選会)に似ている。6日間の長丁場で初日に好発進したんだ。でも普段と違い、あと90ホールも残っていたから、あんまり気にせず普通にやった。今回もリードした状況だけれど、まずは残り36ホールになるまでは普通にやるよ」とさらりと言いました。

優勝を決めた後、すぐに昔話と絡め、自身が置かれた状態を説明できる選手は決して多くないと思います。自らを俯瞰しながら見ることが出来るクレバーさがあるからこそ、逃げ切りを図る状況でも、常に冷静に攻守のバランスを発揮できるのだろうと思います。(解説・佐藤信人

佐藤信人(さとう のぶひと)
1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。

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