男子の“黄金世代”は金谷拓実がつくる/佐藤信人の視点
2019年 三井住友VISA太平洋マスターズ
期間:11/14〜11/17 場所:太平洋クラブ 御殿場コース(静岡)
優勝直後の金谷拓実を見て思うこと
18番(パー5)でイーグルパットを入れた瞬間、拳を振り上げた若き王者の姿は、新たな歴史を切り開く感動的なシーンとなりました。
金谷拓実選手が、ショーン・ノリス選手(南アフリカ)との一騎打ちに競り勝ち、劇的なパットを決めた姿は、大きなアクションで躍動して見えました。ただ、彼の凄さを物語るうえで驚かされた瞬間は、プレー中の姿もさることながら、その数分後のスコアカードを提出するアテストルーム内での姿でした。
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部屋に入ってきた彼は、ため息ひとつつかず、変わった様子を何ひとつ見せないまま、一連の作業を行いました。競技委員の方にいつも通り挨拶を済ませ、同伴者とアテストを確認。3日目までと同じ様子で、いつものようにスコアカードを提出したのです。
初優勝した直後といえば、声が上ずったり、いつもより大きなトーンで話したり、感極まってスコア提出がおぼつかないということも多々あります。金谷選手の姿は、数分前にあの劇的パットを決めた選手とは思えないくらい、実に落ち着いた様子で用事を済ませました。
この平常心こそが彼の凄みであり、最大の武器ではないかと思います。特に勝負どころのパッティングでは、プレッシャーに打ち勝つ度胸と何事にも動じないメンタル。難しい距離のパットでも難なく決めてくる粘り強さは、PGAツアー選手が大舞台で見せるレベルに匹敵するかのように感じられます。
多くの選手が優勝がかかったパットを前にすると、萎縮してしまったり、迷いを見せることが多いのですが、金谷選手にはそういう部分が見あたりません。特にショットやパット前のルーティンは、小気味よくいつも一定。間合いを全く変えず、淡々とプレーを進める。感情のコントロールを日々トレーニングしていないと、なかなかできる行為ではありません。
また彼の魅力は、非常にニュートラルな性格にあります。第一線で戦う選手は、特に負けん気が強かったり、相手を威圧するようなオーラを放っていたり、どこか近寄りがたい部分があるのですが、彼はそのようなタイプとはかけ離れています。
朴訥(ぼくとつ)なタイプ、ごく普通の感覚をもった礼儀正しい青年。気軽に話しかけやすく、とても親しみやすい。そんなキャラクターをイマドキと表現できるのかもしれませんが、勝負の世界ではとても異彩で、好感がもてる選手といえます。
派手なアクションで舞った直後、すぐに切り替えてスコアカードを提出する。これまでいなかった新たなヒーロー像を、試合後の金谷選手の姿に見たような気がしました。(解説・佐藤信人)
- 佐藤信人(さとう のぶひと)
- 1970年生まれ。ツアー通算9勝。千葉・薬園台高校卒業後、米国に渡り、陸軍士官学校を経てネバダ州立大学へ。93年に帰国してプロテストに一発合格。97年の「JCBクラシック仙台」で初優勝した。勝負強いパッティングを武器に2000年、02年と賞金王を争い、04年には欧州ツアーにも挑戦したが、その後はパッティングイップスに苦しんだ。11年の「日本オープン」では見事なカムバックで単独3位。近年はゴルフネットワークをはじめ、ゴルフ中継の解説者として活躍し、リオ五輪でも解説を務めた。16年から日本ゴルフツアー機構理事としてトーナメントセッティングにも携わる。