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「引退も考えた」飯島茜 5年間0勝で目覚めた“感覚”

優勝までの道のりは長かったが勝負を焦らなかった。全美貞とのプレーオフにもつれ込んだゴルフの国内女子ツアー第3戦「Tポイントレディス」(佐賀・若木GC)最終日、飯島茜は正規の最終ラウンドをスタートしてから7時間後、プレーオフ6ホール目の第3打地点で、ついに勝機をつかんだ。異例の延長放送を続けてきたテレビ中継が終わり、ギャラリーたちも帰り路を急ぎ始めた矢先。ただ、飯島はこの一打で王手がかかることを、打つ前から確信していた。

残り92ydから50度のウェッジでピンへと放つ。ヘッドが分厚く当たったビシッという「いい音」を飯島の耳元に残して、ボールはピン下約1.5mのバーディチャンスにピタリと止まった。先に打った全は、ピン上10メートル以上の難しいラインで、この瞬間に勝負あった。

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長らく優勝から遠のいていた飯島は、優勝会見で以前との違いについて「いい音がし始めた」と話した。もともとは細部まで理論にこだわる研究肌タイプ。時にはそれが原因で自家中毒のように調子を崩すこともあったが、約3年前から男子プロの片山晋呉に教えを乞うようになり、“感覚”に目を向けて練習を重ねるようになったという。

今年1月に笠りつ子とともにタイで約1カ月間合宿を行った。常夏の国だが、ラウンドはほとんどせず、自ら「死ぬほどボールを打った」というほど打球練習に時間を費やした。しかも、振ったクラブは、ほとんどがPWを含めたウェッジと7番アイアン。ゴルフ初心者の王道でもある、実戦とは一線を画した練習で、ひたすら打球音の「いい音」を求め続けた。

帰国前には笠が打球音の変化に気づき、帰国してからは片山に「もう、大丈夫。すごく変わった」と、この3年で初めて褒められた。本人も「インパクトが厚くなって、風に負けない強い球が出るようになった。ボールがフェースに乗っている時間が長くなり、アジャストが出来るようになった」と実感していた。プレーオフ6ホール目の第3打は、理論ではなく、流した汗で自信を固めた勝利への一打だった。

会見では、勝てなかった5年の間に「引退も考えた」と告白した。プロテスト合格の翌年の2006年「近未来通信クイーンズ」で初優勝する華々しいデビューを飾り、女子ゴルフブームの真っただ中で2010年までに6勝。次々に新たな若手が羽ばたいていく新陳代謝の激しい世界で、「この世界で勝てなくなった時、勝ちたいモチベーションが下がった時は、引退する時」と覚悟を固めていた。

だが、それも、片山から今シーズン前に「技術は大丈夫。あとは頭。いままでしてないことをしろ」と、読書や料理など、ゴルフ場外での生活の重要性を説かれ、変化が出始めたようだ。「とりあえず35歳まではバリバリ頑張ります」。この優勝で生涯獲得賞金が4億円を超えた31歳は、デビュー直後に比べ、ずいぶんと穏やかになった笑顔で話した。

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