スマイルシンデレラの目覚め 渋野日向子の2019年を振り返る
笑うし泣くし怒るし変だし しぶこのホントに写真で迫る
渋野日向子、21歳。
AIG全英女子オープンで42年ぶりに日本人としてメジャーを制した。
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レジェンド・樋口久子以来の快挙に列島が沸く。ただ、同時に人生が動き出した。
「なんで私が勝ったんだろう」
まだ答えは誰にも分からない。分かるのはヒロインは今年よく笑い、よく怒っていたことくらいだ。
その姿を写真で振り返る。
■始まりの鐘
空は青く澄んでいる。
5月のワールドレディスサロンパスカップ。ゴルフよりもソフトボールが好き、幼少期は仮面ライダーになりたかった―。そんなセリフを飾らずに並べる彼女は、すぐに人の心をつかんだ。一瞬、感傷的になりながら優勝後すぐに笑顔に戻る。五月晴れに大観衆。シンデレラストーリーに始まりの鐘が鳴った。
■勝負師
きっと彼女は勝負師だ。ソフトボールの投手として打者をねじ伏せてきたようにゴルフでもここ一番で逃げることを極端に嫌う。全英女子オープン最終日の12番はまさにそうだった。ドライバーを手にじっと待った。リスクが隣り合うからこそ、見る者をヒリヒリさせた。ただ、これが一勝負終えた後の笑顔が誰よりも輝く理由だとも思う。
■笑顔のチカラ
彼女の笑顔にはチカラがある。
AIG全英女子オープン。「なんでいつもそんなに笑っているの?」。海外の記者は不思議そうに渋野に問いかける。英語は話せないし、コミュニケーションは通訳を介すかボディーランゲージ。ただ笑っている。渋野も、渋野を見る人も。子どもが寄ってきてハイタッチを求め、大人は声援を送る。数も量も増え続けた。なんで私、海外でこんなに応援されているんだろう?―。本人も首をかしげる、そんな不思議なチカラがある。
■スターの宿命
スターの宿命はときに重い。背負うものは選手それぞれにあるだろうが、彼女が背負ったのはゴルフ界そのものだったように感じる。人気、未来。次第に重圧に変わり、自らを追い込んでいく。しかし立場は人を作る。逃げ出したくなるような運命は彼女をまた成長させていった。
■虚像と実像
抑えようのない怒りがこみ上げるときがある。不甲斐ないプレーやミスに苛立ちを隠すタイプではない。スポーツ選手はときに怒りをエネルギーに変えるのだ。それが夏以降はスマイルシンデレラと呼ばれ、笑顔こそ彼女のすべて、と見られた。笑顔も怒りも彼女の真実なのに。虚像が実像を超えていく―。それはきっと過酷なはずだ。
■自分のゴルフ
自分のゴルフだけをすればいい―。迷ったとき、見失いそうになったとき、必ずコーチはこのシンプルな言葉をかけた。作り上げたのは高弾道のショットによる超攻撃的なゴルフ。どれほど人気者になっても、周りの環境が変わっても、信頼できる人がいる。耳を傾けられる素直さと初心に戻れる強さがある。
■視線
台風の影響で初めての無観客試合となったスタンレーレディス。ふと一年前を思い出したという。観客がほとんどいなかった下部ツアーを主戦場にした時期が下積み時代だとすれば、それはきっと必要な時間。2020年には東京五輪の金メダルを目指す。関係者しかいないコースと日の丸。渋野は何を思ったのだろう。
■これから
海外メジャー制覇―。すべてのプロゴルファーが願ってやまない夢をプロ1年目でかなえた。いつやめても、たたえ続けられる快挙だろう。次のモチベーションはどこに置けばいいのか。この先、難しい時期が来るかもしれない。ただ未来の渋野を目指す子どもたちがたくさんいる。「なんで私が勝ったんだろう」。キャリアの歩みが、いつかその答えに導いてくれる。