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「日本一売れるゴルフクラブ」 ゼクシオ開発現場の流儀

80点主義-。日本でゴルフをプレーする人なら、「XXIO(ゼクシオ)」の名を聞いたことのない人はいないだろう。ほぼ2年に1度の周期で新作を出し、国内で「最も売れるゴルフクラブ」として盤石な地位を築いているブランドだ。しかし、その開発責任者が口にしたのは、謙遜しすぎのようにも聞こえる言葉だった。

■ ゼクシオの哲学を継承する43歳責任者

2000年に産声を上げたゼクシオは、2017年12月に発売した最新モデル「ゼクシオ テン」で10代目を数えた。ドライバーからパターまで、シリーズの累計の販売数は実に1900万本超。製造、販売する住友ゴム工業で今回「ゼクシオ テン」の開発責任者を務めたのは、スポーツ事業本部の芦野武史・商品開発部課長だ。開発者として7代目からゼクシオに携わり、9代目からは開発の指揮を執る。

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43歳。紺のスーツにブルーのシャツ、色味を抑えたドット柄のネクタイが、見るからにスマートな印象を漂わす。そんな芦野さんに、ゼクシオの開発コンセプトについて聞いたところ真っ先に飛び出したのが、冒頭の一言だった。「ゼクシオは性能に関して“80点主義”で作っています。たまたま出る一発の飛びではダメなんです。久々にプレーする人が一発目からナイスショットを打てるクラブを作りたいんです」。

ゴルフのスイングは、形もリズムも再現性のレベルも、人によってさまざまだ。その条件の下、すべてのゴルファーにとってやさしく、好まれるクラブであるよう、飛び、振りやすさ、打球音、方向性、上がりやすさ、つかまりやすさといったすべての項目で及第点以上を求める。ヒットが宿命づけられたクラブシリーズの開発には、一人の顧客の100点を狙うオーダーメードとは異なる困難さがある。芦野さんが言う80点主義には「…でいいや」のニュアンスはもちろん微塵もない。

開発フロアにある芦野さんの机の引き出しには、初代から10代目までのゼクシオヘッドが整頓されてしまってあった。「どの時代のヘッドを見てもゼクシオだと分かるように、系譜を崩さないよう、いつでも確認できるようにしています」というのが理由だ。ぶれずに進化し続けるには、大胆な発想を可能にする本質の理解、そして細心の注意が必要だ。

■ 数値化の時代に“感性”のダメ出し

「自動車など他業界のブランド戦略を参考にすることもある」と明かした芦野さんが、その上で、最新の「ゼクシオ テン」シリーズ開発で最も重要視したこととして語ったのは“感性”だった。

「ゼクシオ テン」は発売までに組み上げた試作品が約3500本。パーツとしてのシャフトで数えると、フレックスなどのバリエーションも加わり約4000本に及んだという。CADで起こした設計図を元にモックアップを作り、歴代のゼクシオに携わってきた人たちが“感性”を重視し、構えたときの顔をチェックする。クラウンの頂点の位置が少しずれるだけでも、構えたときの見え方が大きく変わるためだ。芦野さんが「ものづくりの根幹」とも説明する“感性”は、多くのやり直しを生み、ゼクシオらしさの進化と継承を試作品の数だけきめ細やかに進めてきた。

ゼクシオの歴史の中では、設計の自由度を上げるため、ヘッドの素材をチタンではなく、複合素材にするという議論もあった。採用しなかった理由は、ゼクシオが各世代で引き継いできた特徴の一つ「爽快な打球音」を、複合素材のヘッドでは実現できないと判断したためだ。音は周波数によって数値化することもできるが、残響音も含めるときわめて感覚的な要素といえる。

「クラブは人が使うものです。開発陣もここでOKがもらえないと、自信を持って製品を世に送り出せませんから」。必ずしも数値優先とはならないゼクシオならではの開発方針を引き継ぐ者として、芦野さんは胸を張ってそれを強調した。

■ 開発者と製造担当者で真剣なバトルも

2年に1度というモデルチェンジサイクルは、ユーザーの期待感や他社との開発競争の中で実績となっていった周期だ。「正直、短いです。新作の発表会場で『さあ、次どーすんねん?』と、さっそく議論が始まりますからね(笑)。自信を持って送り出せる商品が完成した後も、これをどうユーザーに伝えるか、発表当日の朝まで内容を考えているだけに、無事に発表会を終えて控室に戻ったら『もう次の話かいっ』といった感じです」。

一方、開発する技術屋としては、まずは一息ついて、じっくり腰を据えて革新さを狙いたい気持ちもある。「ゼクシオには前作を超えなければ世に出さないという不文律があります。次世代だけでなく、常に2、3世代先をイメージしつつ、次のモデルでどこまで作り込めるかが勝負です」と、巨大ブランドを背負う開発者がプレッシャーから解放される時間はほぼないのが現実だ。

こうした環境の下、最新モデルの「ゼクシオ テン」は、スイング中の体のバランスに着目し、ミート率を高めるという観点から開発された。スイング中、クラブに引っ張られると感じる人は多いと思う。だが、実際にはヘッドの重量よりも、約7kgある腕の重量が大きく関係しているという。これにより、ダウンスイングからインパクトにかけて、体の前の方向にバランスが崩れやすくなる。そのバランスの崩れをクラブで低減し、ミスヒットを防ぐという考え方だ。芦野さんは「こういった発想にたどり着いたのは、常に行っている基礎研究の賜物です」と語る。

コンセプトを「製品」に仕上げるクラブの製造段階では、幾度となく工場を訪れ、生産工程の担当者と議論を行う。「もっとシャフトを軽くできないか?」という開発側のリクエストに、「そんな重量で作ったら強度を保てず、生産性が上がらないよ」と工場側が激しく反論するバトルも珍しくはない。ときには良い試作品ができても、生産性が上がらず断念することもある。

量産体制が確立するまでは、数々の議論とトライ・アンド・エラーを繰り返す。売れ続けるクラブを作るためには、設計技術と製造技術の両方が求められるのだ。前進を感じられないこともある挑戦と失敗の繰り返しを支える土台は、究極のところ「ゴルファーに振りやすさを享受してもらいたいという全員の思いに尽きる」と芦野さんは話した。

■ 成功しているからこそ…

「得意冷然、失意泰然」。普段から大事にしている言葉を尋ねると、芦野さんから返ってきた答えだ。父に教わったという。『うまくいっているときは運に感謝し、冷然と努力せよ。運に恵まれないときはあわてず、泰然と構えて努力せよ』という意味で理解している。

「正直、初めは意味が分からなかったのですが、ここ最近ようやく分かるようになりました。ゼクシオは世の中的には成功していると思われていますが、そこに開発者が甘んじていては、先を行くものは出せません。良かったときは冷静に見て判断し、あかんときはそれに悲観することなく、問題と向き合って先に進まなければなりません。いろんなことに振り回されず、自信を持ってやることですね」と、胸に刻んでいる。

ちなみに本来は「失意泰然、得意冷然」と順番が逆の言葉だ。ロングセラーのゼクシオに関わっていればこそ、芦野さんには父が授けた「得意冷然」が響くのかもしれない。

芦野 武史(あしの・たけし)
住友ゴム工業スポーツ事業本部・商品開発部技術企画グループ課長。1999年、同社入社。テニスラケット、テニスボールの開発を経て、2010年からゴルフクラブの開発に従事。「ゼクシオ」は7代目でフェアウェイウッド、8代目でドライバーを担当し、9代目からクラブ全体の開発リーダーを務める。

(取材・構成=宮田卓磨、編集=櫃間訓、片川望)

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