逮捕者54人の悲劇から1年 スタジアムに“平穏”が戻った?
◇米国男子◇WMフェニックスオープン 最終日(9日)◇TPCスコッツデール スタジアムコース(アリゾナ州)◇7261yd(パー71)
1週間で70万人前後の観衆を飲み込むツアーの名物大会は1年前、大きな混乱をきたした。例年にない大雨で順延が続き、敷地にはたくさんのぬかるみができて入り口や導線は大混雑。さらに一部の過熱したファンによる暴走もあり、群衆を分散させるためにアルコール飲料の販売を一時禁止。大会史上初めて入場制限も行った。
昨年、スコッツデール警察による期間中の逮捕者は54人にも及び、さらに211人を退場させた。近隣の大型病院の医師が酒に酔い、女性を突き飛ばしたという情報も。巨大スタンドに囲まれた“スタジアム”こと16番(パー3)に代表される騒ぎっぷりは、いつものこととはいえ、さすがに度を超しておりプレーする選手たちも顔をしかめた。当時のデビッド・オルテガ市長も大会後、「無秩序な行動がいくつも目撃された」と非難した。
大会を率いる地域団体のサンダーバードやメインスポンサー、警察は2025年のスローガンに「大きくするのではなく、良くすること」を掲げた。コース内外に「リスペクト」のロゴを掲示してファンに自制を促した。入場ゲートを新たに増設し、場内の人が滞留するエリアを広げたり、舗装した道に(見えるように)することで“渋滞”を解消。昨年は思わぬチケットの返金作業も大変だったことから、一般入場券はデジタルに変更した。
選手の警備も増強され、週末には16番のプレーエリアに10人の警察官が配備された。初日の夜には飲酒をした19歳が、閉門後の退場を拒否して逮捕。後に公の場で人種差別発言を繰り返していた男だったことが発覚し、PGAツアーは今後すべての試合への出入り禁止を言い渡した。
そんなトラブルも勃発したが、大会側は「(もっとも来場者の多い)土曜日もスムーズで、ゴルフを中心としたパーティは通常通りだった。2024年とは対照的だった」とコメントした。ツアーのセキュリティ担当者は「ギャラリーの熱量や振る舞いだけでなく、人の流れにも変化が感じられた。サンダーバードがゴルフ場の導線を変えたことが素晴らしかった」と、運営側の努力を称賛。例年、地元の地域に5億ドル(約750億円)の経済効果、慈善団体に2億ドル(約300億円)の寄付をもたらすビッグイベントは、人の手によって守られた。(アリゾナ州スコッツデール/桂川洋一)
桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw