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2022年 WMフェニックスオープン
期間:02/10〜02/13 場所:TPCスコッツデール スタジアムコース(アリゾナ州)

彼らは邪道か 「フェニックスオープン」に来場する数十万人の生態系

2022/02/15 17:05

◇米国男子◇WMフェニックスオープン 最終日(13日)◇TPCスコッツデール(アリゾナ州)◇7261yd(パー71)

東の空が白むころ、彼らは我先にと息を切らして走る、走る。目指す先は砂漠のゴルフ場にそびえるスタジアム。16番(パー3)に設置された巨大観覧席のシートを確保せんと、ゲートから1㎞にも及ぼうかという通路を駆け抜ける。会場がオープンする午前7時の光景だ。

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2万人以上を飲み込むスタンドは最も高いところで3階建て。事前購入が必要なスカイボックスとは違い、特別なチケットは求められないエリアは早い者勝ちで席が埋まる。日中の混雑時は階段下で空席を待つ列ができ、並ぶ人々は他のホールでのプレーはろくに観ることができない。それでもTPCスコッツデールに来たからには、スタジアム内部の景色を見ずには帰れない。

かつて大会期間中にのべ70万人(現在は非公表)を集めた大会がもっとも熱くなるのは土曜日で、約20万人がコースを埋め尽くす。優勝者が決まる日曜日は例年、米国の国民的行事であるNFLのスーパーボウルと重なるため、半分以下になるのも通例だ。

その土曜の早朝、16番へ走る人々はもちろん大会の熱心なファン。今週、松山英樹の警備を担当した男性が言った。「あいつら、朝3時から開門を待っているんだ」と少々あきれ気味に。「なにも夜中に家を出てくるわけじゃない。彼らは2日目の試合を観て、夕方から隣の『バーズネスト』で酒を飲んで、夜通し騒いでからコースに戻って、ゲートで朝を迎える。クレイジーだろ」。“そういった連中”だからこそ、ホールインワンにアルコールのシャワーを浴びせたのもなんだかうなずける。

さて、“バーズネスト(BIRDS NEST)”なるものは、大会と関連する屋外ライブ会場を中心にした夜のイベント。広大な駐車エリアを挟んだコースとは反対側のスペースで、水曜日から土曜日までの4日間、毎晩開催される。

色とりどりの光線が夜空に放たれ、特設ステージで人気DJをはじめとしたアーティストによって来場者のテンションは最高潮に。もちろんビールやカクテルが販売され、フードトラックやゴルフウェアの新興ブランドのショップも並ぶ。入場料は今年、ゴルフ観戦のチケットとは別に1日あたり85ドルから。VIPエリアは285ドルだった

男性警備スタッフは続ける。「金曜の夜から家に帰らず、土曜日に16番に来た若者なんかはその晩まで騒いで、日曜日はテレビでスーパーボウルを観るんだ。だからね、日曜日にコースに来る人たちほど、ここでは“ピュアなゴルフファン”というわけ」(笑)

確かにフェニックスオープンの客入りは米国でも突出していて、世界でも唯一無二といえる。だが、PGAツアーの会場にはもちろん、そんなピュアなゴルフファンが来場する傍ら、おそらく普段プロゴルフへの興味関心がなさそうな観客もずいぶんいるように見える。

およそゴルフ場を歩くのに適していない、サンダルやハイヒールを履いてドレスアップした男女。足を骨折して松葉杖を頼りに歩く学生、天使のような赤ん坊を連れた若夫婦…。「久しぶり」、「初めまして」と再会と新しい出会いを喜ぶ様子に、「わざわざこんなところに来なくても…」と思ってしまうのは“日本的”だろうか。

ただし、ひとたびこのプロゴルフの試合を、あなたの街の夏祭りや盆踊り大会に置き換えて考えるとどうだろう。老若男女が思い思いの格好で訪れ、神輿担ぎや盆踊りに真剣になる人もいれば、メインステージには関心を示さず、食べ歩きや金魚すくいに興じる人もいる。時間の過ごし方、楽しみ方は様々だ。そして仮に、盆踊り大会に超一流のダンサーが来場するとなったら、露店の前から離れて一目、姿を見たくなる人もいるはずだ。

そういった地元のフェスティバルと目玉の演者の立ち位置は、PGAツアーの会場におけるプロゴルファーの関係に似ている。

フェニックスオープンは冠スポンサーのほか、地域の伝統的なボランティア組織「サンダーバード」が支えている。彼らは大会のあらゆる運営に携わりつつ、期間中は毎年10番グリーンの横にテントを設置し、オリジナルのホットドッグを販売。慣れない手つきでパンに挟むソーセージや野菜を焼き、注文を取る年長者を見ると、なんだか、祭りを仕切る町内会のお偉いさんたちに重なって仕方がない…。

PGAツアーの各大会が長い時間をかけて醸成してきたのは、単にゴルフというスポーツの高い競技性だけでなく、人と地域とのかかわりである。その関係性を媒介にして、ともすればゴルフに興味のない人をファンに取り込もうとしてきた。重要視するのは「ゴルフ場に人を招き入れる」こと。来場者にゴルフへの関心度の高さを問うことなく、あらゆる層をひろく受け入れている。

TPCスコッツデールを訪れる“ピュアでないゴルフファン”を、邪道と断じる見方もできるかもしれない。しかし、マスターズチャンピオンの名前すら知らない彼らが、ビール片手にティイングエリアを通りすがり、松山のインパクト音を聞き、ボールの行方を目で追って、「ジーザス…!」と息をのむのだ。(アリゾナ州スコッツデール/桂川洋一)

桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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